8月9日(火)晴れ時々曇り 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その7

 夏休み20日目。そして、お盆前最後の部活動の日。次の活動日は来週の金曜日になる。


 そんな今日は、創作活動を程々にやりつつ、日曜日のプールの感想会が開かれていた。元々仲が良かったとは思うけど、楽しげに話す姿を見ると、より仲が深まったように見える。


「桐山がウォータースライダーで顔面着地したの面白かった」


「ちょっ、姫宮さん~ あれ結構痛かったんだよ?」


 中でも桐山くんと姫宮さんは1週間ほど前に見たぎこちなさは完全に無くなっていた。たぶん桐山くん本来の親しみやすさと姫宮さんのいじる感じが日曜の間に上手くハマったんだと思う。


「産賀先輩!」


「おお、どうしたの桐山くん」


「……危なかったっす。もう30秒会話が続いていたら心臓が張り裂けていたかもしれないっす」


「そんな状態で話してたの!?」


「だ、だって、あんなに弄られちゃったら嬉しくなっちゃうじゃないっすか!?」


 ただ、桐山くんの方はまだ問題を抱えているかもしれない。というか、桐山くんの目標を考えると、ようやくスタートラインに立てただけだ。でも、ここから先については僕の知識が全くの戦力外になる。


「ま、まぁ、ゆっくり慣れたらいいと思うよ。話す機会はいくらでもあるんだし」


「でも、お盆明けたら元に戻ってるとかないっすか? ちょっと時間が空くと今の感じを忘れちゃう可能性だって……」


「いやいや。夏休み中に一切会わないならともかく、1週間くらいで忘れないよ」


「そうっすかね……女心と秋の空って言いますし……」


「姫宮さんの感情はまだそこまで言ってないと思うよ」


 僕は少し呆れ気味に言うけど、桐山くんは一人で悶々としていた。恋に悩む人はこんな風になるものなんだろうか。僕も傍から見れば……いや、さすがにここまでふわふわしていないはずだ。桐山くんには悪いけど。


「副部長」


 僕がそんなことを考えていると、今度は姫宮さんが僕へ声をかける。


「桐山の件お世話になりました。」


「僕はほとんど何もしてないよ。姫宮さんが話そうとがんばったせいかだと思う」


「そうですか。でも副部長が間に入ったから助かったのは事実です」


「ははっ、それなら良かった」


「おかげで面白いおもちゃが増えました」


「えっ」


「間違えた。面白い話相手ができました」


 姫宮さんはそう言いながらクスクスと笑う。桐山くんは……姫宮さんのこの感じをわかった上で惚れたんだろうか。いや、人の好みをとやかく言うつもりはないけど、姫宮さんは中々にくせ者だと思う。


 そんなこんなで、文芸部としても少しばかりの休みに入る。でも、僕は肝心の創作がさっぱりだからお盆中こそアイデアを捻り出さなければならない。こうなったら僕も恋愛モノを……もう少し考えてみよう。

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