5月31日(火)曇りのち晴れ 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その3
5月最終日の火曜日。文芸部で1年生の3人からいじられ始めるのが定番となりつつある一方で、それ以外の時間だと男子勢で固まって話すことが多くなっていた。
その理由の1つには1年生唯一の男子である桐山くんが孤立しないようにするためでもある。
「へー じゃあ、今の3年生にはもう何人か男子がいたんっすね」
そんな中、今日は藤原先輩から桐山くんへ過去の男子部員についての歴史が語られていた。僕が入部してからの1年間は結局藤原先輩もしくは時々来る新山先輩以外の顔を見ることはほとんどなかった。そして、この3年生に上がるタイミングでその何人かの男子は退部扱いになっていた。
「何だか寂しいっすね。でも、なんで来なくなっちゃったんだろう? 別に過ごしやすい部活だと思いますけど」
「……それは幽霊部員の経験がある人に……聞けばいいと思う」
藤原先輩はウィスパーボイスでそんなことを振ってきた。
「えっ。産賀先輩って幽霊部員だったんすか?」
「ま、まぁ、うん。中学の時の話ね。卓球部だったけど早々に行かなくなっちゃって」
「へー それはどういう理由で行かなくなったんです?」
「どこかしら入部しなくちゃいけないって言われて、緩くやってる卓球部を選んだんだけど……そもそもスポーツ全般が苦手だから行くのが面倒くさくなっちゃって。それで気付いたら足が遠のいてたって感じかな」
「だったら文化部でも良かったんじゃ……」
「ぐうの音も出ないよ。その時は特にやりたい部活がなかったのもあるけど、スポーツに行ったのが間違いだった」
「じゃあ、来なくなった方々も想像していたのと違って辞めちゃった感じなんすかね」
「……兼部してる男子もいたから……そっちを優先したのもある……かも」
そんな話を続けていると、別に自分たちはもう関わりが無いはずなのにどんどんと暗い気持ちになってきた。僕が幽霊部員になったことをあまり詳しく話さなかったのは罪悪感もあるけど、話しても変な感じになってしまうというのもあった。
「すみません。あんまり掘り下げない方がいい話題だったっすね。もっと明るい話を……そうだ! 藤原先輩は……この部活で気になる子とかいないんすか?」
その空気を桐山くんは強引に切り替えるけど、まさかの方向だったので僕は驚く。よりにもよってそこを選んでしまうのか。
すると、藤原先輩は僕と桐山くんから目線を逸らして、そのままこちらを向いてくれなくなる。
「産賀先輩……これは別の意味で掘り下げない方が良かったやつっすか……?」
「いや、悪い意味じゃないとは思うんだけど……」
正直なところ、僕もあれから藤原先輩とソフィア先輩がどう進んでいるか気になってはいる。ただ、ここ最近は2人とも忙しいこともあるのせいか、直接的な絡みがないというか、新年度からは以前ほど親しげな姿を見ていなかった。
「ということは……誰かいるってことですか!? えっ!? 誰なんすか!?」
「あっ」
僕はそう言われてから桐山くんへの返しを失敗したことに気付いた。
「ほ、掘り下げない方がいい話ってことで」
「そこまで言っといて……さすがに女子だらけで全然絞れないっすよ!」
「絞らなくていいから」
「でも――」
「まだ」
「「えっ?」」
「その時じゃない……だと思う」
突然、そう言いだした藤原先輩に僕と桐山くんは顔を見合わせて首を傾げた。
まぁ、今日は妙な感じになってしまったけど、なんだかんだ文学部男子3人は仲良く(?)やっているということだ。
でも、藤原先輩が言うその時については……今度桐山くんと考えることになるかもしれない。
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