4月26日(火)曇り時々雨 後輩との日常・桐山宗太郎の場合

 はっきとしないの天気の火曜日。本日も部活の見学者は来なかったけれど、新入部員の4人を含めた初めてのミーティングが行われる。


 まずは文化祭に向けた創作について。1年生は高校初のGWなので休んだり遊んだりと忙しいかもしれないけど、今のうちからアイデアを練っておいた方がいいことが伝えられる。もちろん、2年生以上にも当てはまることで、僕も暇な時間には考えておこうと思う。


 次に新入部員の歓迎会について。今日来なければ新規で来る可能性はほぼないと思われるので、今いる4人の入部を祝うことになる。場所は今のところうちの文芸部恒例のファミレスになるので、後は日程調整だけだ。


 最後に創作以外の活動について。今日は例としておすすめ本の紹介をやることになり、主に1年生に向けて岸本さんが何冊か本を持って来てくれた。それ以外にも文章を書くことに関わる座学をやることを伝えると、特に伊月さんはほっとしているように見えた。


 そうして、今日やるべきことは終わってうちの文芸部恒例の雑談タイムになる。今のところ男女で分かれて話すので、今日も桐山くんとの絡みだ。


「……産賀先輩。俺、相談したいことがあるっす」


 そんな桐山くんはやけに真剣そうな顔でそう言う。先ほどのミーティングでわからないことがあったのだろうかと思って、僕は「どうしたの」と言いながら聞く姿勢になる。


「……女子と上手く話すにはどうしたらいいっすか?」


「……女子と?」


「文芸部って女子の方が多いじゃないですか。俺、中学までそんなに女子と話す機会が多かったわけじゃなくて……産賀先輩はこの中でやってきたなら何かわかるんじゃないかと思って」


「な、なるほど」


 桐山くんは期待の目を向けてくれるけど、僕は困ってしまった。確かに文芸部は女子が多いけど、話せているのは先輩方が積極的に接してくれたおかげなので、僕は特に何もしていない。

 しかし、それをそのまま伝えて話してごらんと言うわけにもいかないので、少し考えてみる。


「上手くと言われると難しいけど……普通に学校生活の話や本の話をしたらいいんじゃないかな。本については文芸部だからみんな少なからず興味あるだろうし」


「それも参考になりますけど、もっと根本的なところなんっすよ。話す時に緊張しちゃうというか……」


「それは……知り合ったばかりだし徐々に慣れていくしかないと思う」


「でも、それで足踏みしていると印象良くない感じじゃないですか?」


 桐山くんは前のめりにながらそう言う。迷っている割には積極的なようだけど、正直なところ僕が出せる案はそれほど多くない。

 すると、桐山くんは顔を下に向けてしまった。


「産賀先輩……」


「ご、ごめん。もっと具体的なアドバイスができたら――」


「正直に言います。俺、この文芸部で気になる子がいるんです」


「……ええっ!?」


 大きな声で驚いてしまったので僕は周りを見渡すけど、他も喋っていて聞こえていないようだった。


「ほ、本当の話……?」


「はい。元から文芸部に入部したい気持ちはありましたけど、ぶっちゃけるとそれが入部の決め手になった感じです」


「お、おお……」


「一目惚れでした。クールだけど可愛さもあって、俺的に理想の長すぎず短すぎない髪……髪飾りで前髪を留めるところもめっちゃ好みなんです」


 桐山くんの出す情報を元に僕はもう一度周りを見渡すと、該当する子が一人いた。


「つまり……」


「はい。姫宮さんに一目惚れしたんです。そういうわけで、産賀先輩には是非ともお力添えをして貰いたいんっすよ」


「そ、そう言われても僕はそっち方面は全く……」


「えっ。産賀先輩、彼女いないんっすか?」


「う、うん……」


「…………」


「…………」


「じゃあ、俺と同じ立場で考えてくれるってことですね! 産賀先輩、この1年で得たもの色々教えてください!」


 桐山くんはもの凄くポジティブにそう言う。そこまで言われてしまうと……僕は素直に答えるしかなかった。


 新入部員のことを少しずつわかっていきたいとは思っていたけど、いきなりそういう方向で桐山くんのことを深く知ってしまうと思わなかった。

 別に部内恋愛が禁止されているわけじゃないので、どうするかは自由だけれど……僕は程々の距離でいたいというのが本音だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る