3月2日(水)雨のち曇り 大山亜里沙の再誕その9

 翌日にテストを控えた水曜日。気になることはあっても時間は待ってくれないので、今はテストに意識を向けていくしかない。


「うぶクン、ちょっと前のページも確認させてね」


 そんな今日も現社の授業があったので、大山さんにノートを見せていた。今日やったところはテスト範囲には含まれないようだけど、それもスマホに写していたのでテスト後も終業式まではこのやり取りが続くのだろう。


「どこか写し忘れてたところあったの?」


「ううん。一応確認してるカンジ。でも……うん、大丈夫そう!」


「写真と照らし合わせてないけど大丈夫なの?」


「テスト勉強で使ってるから内容は結構覚えてるし。というか、写したやつしか使えるものないんだケド」


 大山さんは笑いながらそう言う。後からノートに書き写しているという話は聞いてなかったからそうだとは思っていたけど、現社だけは電子保存されているようだ。

 

 正直に言うと、そっちの方が板書の手間が省けて楽だと思うし、実際に大山さん以外の人も授業終わりの黒板にスマホを向けていることがある。

 ただ、それで授業中に何も板書しないで先生の喋りだけを聞くことになると、僕も眠気に負けてしまいそうな気がする。


「あっ、そうだ。このテストが1年最後だし、久しぶりに何かかけて勝負しよっか?」


「そんな軽い感じで勝負するの」


「いやいや、重いカンジで勝負する方が大変でしょ。かけるのは……まぁ、シンプルに何かおごるでいいか」


「まだ同意してないんだけど!?」


「でも、うぶクンは最終的に受けてくれるはずだから……それで、受ける? 受けない?」


 大山さんは期待のまなざしで僕を見てきた。そういう流れにされてしまったら僕は意思が弱いので断ることができない。


「……わかった。あんまり高くないおごりでお願いします」


「別にうぶクンの負けが決まったわけじゃないのに。いやー 実を言うと前の期末テストの点数もあんまりで……って話したっけ?」


「詳しくは聞いてないと思う」


「だからこそ、やる気を出すために勝負しよう……と今思い付いたワケ」


 大山さんはなぜか得意げに言う。テスト直前でそう言いだしたのだから本当に今日この瞬間思い付いたのはよくわかる。


「うぶクンも勝った時のこと、ちゃんと考えといてね! テスト終わった後にすぐ聞くから」


「う、うん……」


「あっ。めちゃめちゃアタシにおごりたいって言うならそれは別で聞くからいつでも言ってね」


 冗談なのか本気なのかわからない言葉に僕は苦笑しつつ、ノートを返却して貰った。


 もう少し前に言われていたらもっと勉強を頑張っていた……わけでもないけど、勝負を持ちかけられたことで今回のテストに久しぶりに緊張感が生まれた。

 それが今の僕へプラスに働くかわからなけど、とにかく明日から頑張ろう。

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