2月7日(月)晴れ 清水夢愛の願望その5

 2年生が修学旅行に出発する月曜日。そんな2年生がいない校舎はどこか少し静かな気がした。3年生も時期的に全員が学校へ来ているわけではないから今日から木曜日までの4日間は1年生全員と少しの3年生しかいないこの空気が続くのかもしれない。


 そんな中で僕も2年生の先輩方には知り合いが多いから思わず北海道の天気を確認してしまった。先日はかなり積雪があって木曜日まで全体的に曇り空のようだけど、旅行を楽しむこと自体は問題なさそうだ。


「おっ。先輩からLINE来た! ほら、時計塔だって。結構小さいらしい」


 昼過ぎに松永はそう言ってスマホを見せてきた。移動手段には飛行機を使うらしく、空港に行ってからこの時間にはもう北海道巡りが始まっていた。どういうスケジュールで動くのかわからないけど、最初は少しばかり観光していくらしい。


「松永の先輩、めっちゃ写真送ってるけど怒られないのかな」


「まぁ、名所の撮影だから大丈夫なんじゃない? さすがにスマホ禁止は小学生かよってなるだろうし」


 松永がそう言うけど、恐らくテニス部のグループには数分おきに画像が流れていた。一方、文芸部のLINEはそのような事態になっていない。まぁ、報告する対象が僕か岸本さんくらいになってしまうし、性格的に送るタイプじゃないのもあるのだろう。


 放課後になる頃には何やら学習の時間になっている、と松永からの報告でわかった。逐一言ってくれるのは聞いてる側的には楽しいけど、その先輩が報告に気を取られていないか少々心配になってしまう。


 それから僕は部活がないのでそのまま帰宅して、平日のいつも通りの時間を過ごしていった。その間も松永からは報告の報告が送られてくるので、途中で「もういい」と返しておいた。


 そして、修学旅行のことはすっかり頭から抜けて夜の時間になった頃、LINEに通知が入る。


――雪、凄く積もってた!


 そのメッセージと共に送られてきたのは清水先輩と北海道のどこかしらの風景を写した写真だった。

 でも、僕が驚いたのは雪がないことではなく、清水先輩が自撮りらしき写真をLINEで送ってきたことだった。今までそこそこやり取りしてきたけど、そんなことは一度もなかった。


 それ自体は何でもないはずなのに僕は変に緊張してどう返すか悩んでしまう。


 数分後、「良かったですね。風邪ひかないように気を付けてください」と特にひねりの無い文章を返した。


――ありがとう!

――明日はスキー場とか行くらしい

――楽しみだ


 清水先輩の返しを見た後、また何か返そうと思ったけど、会話が長引いても悪いと思ったので既読だけして終わっておいた。


 その後、もう一度だけ清水先輩の送ってきた写真を見てみたけど……何か悪い気がするのですぐに画面を消した。


 こんな時間にわざわざ送って来ることや普段送らない写真を送っているのは清水先輩も楽しんでいる証拠なのかもしれない。ただ、その送り先が僕なのは……やっぱり変に照れてしまう。

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