12月12日(日)曇り 誕生日会は楽しい

 慌ただしく準備した翌日の日曜日。小さな誕生日会は午後からの開催で場所は岸本さん行きつけの喫茶店だ。誰かに家へ集まることも一瞬だけ候補に上がったけど、僕が全力で遠慮したからそこが選ばれることになった。

だって、僕が二人の家へ行くのは変に緊張するし、僕が二人を家へ招くのも(主に家族への説明が)面倒だからそう言わざるを得なかった。


 それに今回の誕生日会とは銘打っているものの、別に大々的に祝おうというわけではなく、当日に祝えなかった岸本さんを改めてお祝いすることが目的だから喫茶店でやるくらいがちょうどいいと三人とも思っていた。


「岸本さん、2ヶ月遅れだけど、お誕生日おめでとう」


「華凛も改めてにはなりますが、おめでとうございます、ミチちゃん」


「二人ともありがとう。わたしも繰り返しにはなるけれど……産賀くん、お誕生日おめでとう」


「華凛はどうだったか忘れましたが、おめでとうございます、リョウスケ」


 この月曜日も一日遅れで誕生日を祝われたけど、まさか一週間経ってまた祝われるとは12月に入ったばかりの僕も思っていなかっただろう。でも、祝われること自体はどんなタイミングでも嬉しい。


「それでは本日のメインイベント……というよりはこれしか目玉がありませんが、プレゼントの時間です。お二人ともこれを」


 そう言った花園さんは僕と岸本さんへ小さな包みを差し出す。


「わぁ。ありがとう、かりんちゃん。今開けて見てもいい?」


「もちろん。ミチちゃんのは選ぶのに少々難航しましたが、喜んで貰える自信があります」


「なんだろう……あっ!」


 岸本さんの方の包みから出てきたのは花の形をしたキーホルダーのような物で……昨日買い物で色々物色した僕は説明される前にそれが何かわかった。


「ブックマーカーです。普通の栞と迷いましたが、せっかくなので少し洒落たものを選んだつもりです」


「凄く嬉しい。わたし、時々本のおまけに付いているやつを使うばかりでしっかりした栞は持ってないから」


「それは良かったです。一応、デザイン的には飾っても見栄えする物なので自由に使ってください」


 岸本さんの嬉々とした反応に花園さんは満足そうな顔をする。一方の僕は顔には出さないけど、心の中でほっとしていた。明莉の言っていた通り趣味や好みに合わせると被る展開もあったかもしれない。


「じゃあ、僕も開けさせて貰うね。これは……ギフト券?」


「はい。うちのお店でも使えるスイーツのギフト券です。できればうちで使って貰いたいですが、用途は任せます。妹さんと行ってください」


「いや、ぜひ花園さんのとこへ行かせて貰うよ。ありがとう」


 花園さんにもどこかのタイミングで僕に妹がいること話したけど、それを覚えていてくれたようだ。僕も社交辞令ではなく、いつか本当にお邪魔するつもりではあったから素直に嬉しい。


「華凛から同時に渡してすみません。それではお二人の交換もどうぞ」


 花園さんがそう勧めるので、僕と岸本さんはそれぞれのプレゼントを取り出して交換する。僕からのプレゼント先ほど花園さんが渡した物と同じくらい小さく、岸本さんからのプレゼントはちょうど文庫本くらいの大きさで……というかそのものだった。


「わたしのは今産賀くんに読んで欲しい本を選んだの。あっ、絶対読んでというわけではなくて、気が向いたら読んでくれればという意味なのだけれど……」


 中から出てきたのは『望遠鏡の中の君へ』というタイトルの本だった。それだけではどういうジャンルの本かわからないけど、岸本さんがおすすめするからには良い作品に違いない。


「ありがとう。最近は本を読めてなかったからこれを機にまた読書する習慣を身に付けるよ」


「本当に無理して読むものじゃないから自分のペースでね。じゃあ、わたしも開けさせて貰って……これは……」


 明莉のアドバイスから栞やブックカバーが被ったり、今までもプレゼントされやすいものだったりするかもしれないとわかった僕は悩みに悩んだ末に敢えてそこを外すことにした。その結果、岸本さんへ渡すプレゼントは……ボールペンになった。


「岸本さん、文芸部でも手書きでメモしている印象があったから。一応、僕なりに派手過ぎず地味過ぎない色を選んだつもりで……」


 言い訳のように説明してしまうのはプレゼントとして微妙に自信がなかったからかもしれない。本関連の物を外すなら定番のアクセサリー系がいいようにも思ったけど、それは少し押し付けがましくなってしまうから実用性の方を取ることにした。

 明莉に色味や柄を見て貰いつつ、自分では買わないような少し高めのペンにすればプレゼントとしてもそれなりに価値がある……と思って購入を決めたけど、渡した後でやっぱりもっとお洒落で可愛らしい物にすれば良かったかもしれないという気持ちが出てくる。


「使いやすさとか岸本さんのこだわりもあるだろうから、それは予備のペンとして使って貰えれば……」


「……ううん。ちょうどボールペン欲しいところだったの。だから、明日から早速使わせて貰うわ」


 岸本さんはそう言ってくれるけど、どちらかと言うと意外なプレゼントに驚いている感じがした。でも、これで明莉の最初の意見に従っていれば栞被りをしていた可能性があるので、これはこれで良かった……と思いたい。


「交換も終わったところで、ケーキの注文といきましょうか。こちらも華凛がお代を……」


「あっ、待って。花園さんにもプレゼントがあるんだ」


「あっ、わたしもかりんちゃんにプレゼントが……」


「二人とも……華凛の誕生日は2月28日と言ったはずですが?」


「「いや、そういうわけじゃなくて」」


「冗談です。そんなぴったりと突っ込まないでください」


 花園さんのプレゼントは別に話を合わせていたわけではないけど、岸本さんの方も購入していたようだ。僕からはパスケース(電車通学なのでそれ関連で使って貰えればと考えた)、岸本さんからは別のおすすめの本がそれぞれ花園さんへ渡される。


「かなり先の華凛の分までありがとうございます。何だかプレゼント交換会のようになってしまいました」


「クリスマスも近いし、ちょうどいいんじゃない?」


「なるほど。華凛はクリスマスでも誕生日でもかなり前借りになってしまいますが」


「心配しなくてもまた誕生日の時はお祝いするよ。2月28日に」


「はい。2月28日にお願いします」


 そんなプレゼントの渡し合いが終わると、僕たちはケーキと飲み物を頼んでお喋りを始めた。結局、誕生日会らしい要素はあまりなくて、テストのことや年末年始の予定とかのいつでも話せそうな話題ばかりだったけど、特別な会である雰囲気はとても楽しいものだった。


 プレゼントに対する二人の反応は……悪くなかったと思うので、明莉には非常に感謝している。貰ったギフト券は提案通り明莉のために使わせて貰おうと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る