12月8日(水)雨のち曇り 花園華凛との日常その3

 期末テスト3日目。昨日話題に挙がった日本史については可もなく不可もなくといった感じだった。歴史的に近代になってくると、「漫画やゲームで見た!」というものが少なくなってくるので興味もそこそこになってしまう。最もそういう作品に出てるキャラはちょっと名前が違うこともあるからそれだけで覚えると大変なことになってしまうけど。


「今日のテストはそこそこできた気がします。具体的には赤点ではないかと」


 花園さんは誇らしげにそう言った。人によってはそれをギリギリと言うけど、本人が満足ならそれでいい。

 そんな花園さんと岸本さんがやって来たのは明日に数Aがあるので僕へ質問したいことがあるからだった。数Aに関しては得意とは言わないけど、二人よりはできると思われている。


「かりんちゃん、日曜日も凄くがんばってたから今回も補講は大丈夫だと思う!」


「あれ? 花園さんって高校に入ってから補講を……」


「受けましたが何か?」


「いや、何かってわけじゃなくて……何でもないです」


「言いたいことはわかります。華凛は如何にも勉強できそうな感じだと」


 図星だったので僕は黙ってしまう。人を見た目で判断するのは良くないことだけど、普段の花園さんから感じる空気感は教養がある感じがする。でも、それを押し付けるのはたとえ良いように取っていても失礼なことだ。


「ごめん。別に悪いと言いたかったわけじゃないんだ」


「わかっています。実際、華凛は実力を隠しているだけなのでリョウスケの目は節穴ではありません」


「そ、そうなんだ。その隠している実力って何なの?」


「さて、何でしょう? 当ててみてください」


 急にそう言われたので僕は思わず岸本さんの方を見る。すると、岸本さんは「付き合ってあげて」と言わんばかりに頷いた。


 隠している実力であるならば何か一芸に秀でていることが考えられるけど、これまで花園さんと話した中で何か感じ取れることがあっただろうか。


「……全然わからない。ヒントを貰える?」


「そうですね。それではミチちゃんに出して貰いましょう」


「えっ、わたしなの!?」


 見ているだけど思っていた岸本さんは驚きながらも律儀にヒントを考え始める。僕としてはそのまま答えを教えて貰って下校したい気持ちが少しあるけど、ここで面倒くさがってはいけない。


「……和洋中で言うなら和かな」


「ミチちゃん、それはかなり大ヒントです」


「和? 日本的なもの……」


 その並びを聞くと食べ物が最初に思い付く。そうなると、和風料理がめっちゃ上手い……と考えるのはお昼前でお腹が空いているからだ。和洋中で分けられるものは他にもたくさんある。日本的なもので、隠せるような一芸で言えば……


「……華道?」


「答えはそれでいいですか?」


 僕が頷くと、花園さんはたっぷり間を貯め始める。直近でこういう感じのクイズ番組でも見たのだろうかと思いつつ僕は答えを待つ。


「……残念です。華凛の名前から安直な発想で導き出したようですね」


「め、面目ない……」


「それではまた次回の挑戦をお持ちしています」


「ええっ!? 教えてくれないの!?」


「少しくらいミステリアスな部分があった方が良いかと思って」


「どういうキャラ立ちを狙ってるの……岸本さん、他にヒントは!?」


「またわたしなの!? そんなに隠さなくてもいいと思うのだけれど……」


 ちょっとだけノッていた僕に対して岸本さんは冷静に切り返す。


「ミチちゃんがそう言うなら仕方ありません。華凛が得意なのは和菓子作りです」


「食べ物で合ってたのか……でも、驚いた。どこかで習ってる感じなの?」


「華凛の家は和菓子屋なので、小さい頃から少しずつ教えて貰っていたのです。しかし、少々見栄を張りました。隠しているというほど華凛の腕はまだよくありませんので」


「そうだったんだ。岸本さんは店に行ったことあるの?」


「うん。家も含めて何度かお邪魔させて貰ったわ。店内で食べられるスペースがあって和スイーツが食べられるの」


「へぇ。妹が甘いモノ好きだから今度行ってみようかな」


「ぜひお越しください。特に友人サービスはしませんが」


 花園さんはにこやかに言うので本当にサービスはしてくれなさそうだ。


 そんな雑談も交えつつ明日のテストに向けて少しだけ話をしてから今日はそのまま解散となった。


 花園さん本人は謙遜していたような、そうでなかったような……どちらかわからない感じだったけど、実際に和菓子が作れるのなら十分凄いことだと思った。でも、それはそれとして今回も補講にならないことを願っている。

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