11月14日(日)晴れ 明莉との日常その24

 冷え込む日曜日。今日は午後から明莉の友達である原田さんが来訪する。僕が最後に会ったのは確か文化祭の時で、その時は僕より先輩方と話していたからすごく久しぶりな感じがする。


「お邪魔しまーす。あっ、あか兄さん、こんちわです」


 明莉が居間に原田さんを連れて来ると、僕はゆっくりとコタツから抜け出す。これが出てから約1週間になるけど、暇さえあればここに入っている。


「こんにちは。ゆっくりしていって」


「はい! あれ? あか兄さんはどこか行ちゃうんですか?」


「もう、ちゆりん。お兄ちゃんは別にいいでしょ」


「えー せっかくコタツなんだからみんなで囲めばいいじゃん。それと、あかちはあたしの前ならもうお兄ちゃん呼びしなくても大丈夫だよ?」


「いや。こうしておかないと学校でも言いそうになるからダメ」


 明莉は少し顔を険しくて言う。僕は全然構わないけど、確かに学校で「りょうちゃん」呼びしてしまったら以前の原田さんの如くいじられることだろう。


「あたしの家、床暖なんでコタツはいいだろーって両親が言っちゃってるからコタツに入れるの年末年始でおばあちゃんの家へ行った時だけなんだよー。だから、たまにはコタツらしい体験がしたい!」


「コタツらしい体験って?」


「ほら、中で足をぶつけてお互いに謝るやつ」


「あるあるだけど、自分からやるもんじゃないでしょ。それに二人でも成立するし」


「うーん……じゃあ、トランプやるんであか兄さんも参加してください! いいでしょ、あかち?」


「まぁ、それならいいけど……」


 僕は「それならいいんだ」と心の中で思いながら再びコタツへ戻る。原田さんの言うようにコタツは祖父母の家で入るイメージがある。その日は一日中そこから動かずに終わってしまうやつだ。

 それから明莉がうちにあるトランプを取ってくると、コタツのテーブルに手札が配られる。意外に最近はトランプをやる機会がなかったからこの光景は何だか懐かしい。


「今日は元からトランプやる感じだったの?」


「ううん。何も決めてない。というか、人の家にトランプやるために来ることなんてなくない?」


「それもそうか。あれ? じゃあ、二人はこういう家で遊ぶ時っていつものノープランなの?」


「逆に聞くけど、りょ……お兄ちゃんはプラン立てるの?」


「あたしも気になります! 男子だけだと結構違うんですかね?」


 明莉と原田さんにそう聞かれて考えてみるけど、確かに最近松永が家に来る時は特に何をすると決めてないような気がする。でも、大倉くんとゲームで対戦する時みたいに事前に決めることもあるので、時と場合によると言うのが正しい。


「ただ、昔は家に集まるなら流行のゲームやカードで対戦しようぜ!って言って集まってたなぁ」


「へぇー そうなんですね。あかちはそれに付いて行ったりしたの?」


「さすがにお兄ちゃんが遊びに行く時は付いて行かなかったけど、うちに来て顔を知っている人ならゲームに混ざったりはした」


「おおー なんかうらやましいなぁ。あたしは班の上級生の女子と遊ぶことはあったけど、男子は全然だった」


「それが普通だと思う。それにうらやましがるほとじゃないよ。上級生の男子はゲームは全然容赦しないし」


 明莉は「特にまっちゃんは」と付け加えたそうな顔をしている。明莉が混ざる時はだいたい松永がいた気がするし、その時に松永はよく明莉をゲーム内で狙っていた。


「それでも体験してないことは楽しそうに見えるじゃん? あかちは普通に女子同士でも遊んでたわけだし」


「そういうものかなー まぁ、今のあかりなら全然負ける気はしないけどね」


「ほう……こう見えてあたしはババ抜きめちゃつよなんで、同じく負ける気はしない!」


 そう言った二人は何故か僕の方を見てくる。いや、その時に明莉を倒していたのは僕じゃないんだけど……仕方がない。ここは大人げないかもしれないけど、長年カードで遊んだ実力を体験して貰おう。


 その後、一時間ほど色々なトランプゲームをやった結果……思ったよりも勝てなかった。自信ありだった原田さんはもちろんのこと、明莉も意図的にカードを出さなかったりとあの頃とは違う戦い方を身に付けていたのだ。

 小さい頃の若干ルール無視のアナログゲームもそれなりに楽しかったけど、少し賢くなって戦術的にやるアナログゲームも楽しいものだと思った。

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