11月3日(水)晴れ 松永浩太の惚気話

 祝日となる文化の日。そんな日とは何の関係もないけど、久しぶりに松永が家へ遊びに来た。


「いらっしゃい、まっちゃん」


「おお。今日は明莉ちゃんもいたんだ。お邪魔しまーす」


「待った! 家に上がりたくばジョノカの写真を見せるのだ」


「いや、普通に入らせてあげて」


 明莉の発言に僕はツッコミを入れる。玄関でいきなり人のジョノカ……じゃなくて彼女の写真を要求するやつがあるか。


「まぁまぁ、りょーちゃん。そんなに見たいなら見せてあげよう。ちょっと待ってな」


 しかし、それに対して松永はノリノリでスマホを見始める。そんなことあるのか。一応僕と遊ぶつもりで来て玄関で彼女の写真を見せびらかすことが。


「これが俺の彼女の伊月茉奈ちゃん」


「へぇ~ めっちゃ可愛いじゃん!」


「いやー それほどでもー」


「まっちゃんどうやって落としたの?」


「それは……中に入って話させて貰おうか」


 明莉は松永をすぐに上げて居間へと導く。この時点で僕は完全に置いてけぼりだった。


「伊月さんかぁ。同じ学校だけど会ったことはないなぁ。どこの部活に入ってるの?」


「家庭科部だよ。あと今は委員会で美化委員やってるらしい」


「うーん。どっちも会うタイミングないなぁ……ていうか、それだとまっちゃんも知り合うタイミングなくない?」


「俺が中学3年で体育委員になった時にたまたま一緒になった。それから校内で見かけると話すようになってねー」


「へぇー それで連絡先を交換したの?」


「それは委員会の時かな。でも、初めはグループで話してたから個人でやり取りはしてなかったなぁ。遊びに行ったのも運動会終わった後、体育委員の打ち上げした時が初めてだし」


 中学の体育委員でそんなことをしていたのは初耳である。いや、僕が部活も委員会もやってなかったから打ち上げに行くような状況になってなかったこともあるけど。


「じゃあ、付き合うまでの期間は短かった系?」


「いや、そんなこともないかな。その打ち上げが終わった後、俺は一応受験生だったし、勉強することになったんだけど、その時期も勉強進んでますか?とか体調を崩さないようにしてくださいとか、結構声をかけてくれて」


「おー! つまり、アタックしてきたのは伊月さんの方だったんだ!」


「そうそう。それで受験勉強のリフレッシュがてら二人で遊びに行くことが何回か増えてさー」


 その話は「昨日もちょっと遊んじゃってさー」みたいなことで聞いた気がする。その時点では単に友達や先輩後輩の関係だったんだろうけど、よく受験勉強中にそんなことができたものだ。


「去年のクリスマスも一緒に遊んだりした?」


「もちろん。ただ、さすがに年明けからは本腰を入れたかったから暫くは連絡だけにしといて、2月に今の高校受かってから今度は俺からも誘ったりして……」


「じゃあ、卒業式の時のまっちゃんはもうリア充だったんだ」


「その時はまだ。付き合いだしたのはそれが終わって春休みに入ってからだった」


「どっちから告ったの?」


「茉奈ちゃんから来てくれた。俺もいい雰囲気だとは思ったけど……ほら、俺シャイだから」


「嘘だー まっちゃん、ちょっと待ってたんでしょ?」


 僕もそう思う。松永はそういうことで踏み止まるタイプではない……他に付き合った話を聞いていないから感覚で言っているけど。


「さすが明莉ちゃん。実質俺の妹だぜ」


「いや、それはないから」


「急に冷たいなー まぁ、シャイは違うかもだけど、俺もちょっと迷ってて茉奈ちゃんの方が勇気を出してくれたんだ。あれからもう7ヶ月なんて……時は早い」


「そんなに経つんだー もっと早く言ってくれれば良かったのに」


「明莉ちゃんに言うタイミングないじゃん」


「りょうちゃんにも結構黙ってたくせにー」


「それはまぁ……ねぇ?」


 僕に聞かれても困る。伊月さんと付き合い始めた後も松永は変わらず松永だったから「彼女できた?」なんて質問が出てくるわけがない。つまり僕は悪くない。


「最近はどこ遊びに行ったの?」


「今は茉奈ちゃんの方が受験生だからあんまり行けてないけど……」


「ちょっと待った……この話まだ続くの?」


 無限に続けられそうな会話を僕が静止すると、明莉と松永から疑問に満ちた顔を見せられる。


「なんで止めるのりょうちゃん。面白いじゃん」


「りょーちゃんはあんまり聞いてくれないんだからたまには話させてよ」


「聞いてくれないって、別に聞きたい話でもない――」


「ちなみに初めて遊びに行った場所はどこだったの? 何か写真残ってない?」


「その頃はまだツーショットとかする感じじゃなかったから一番古い写真は……」


 その後も松永&伊月さんのあれこれを聞かされることになり、明莉は楽しそうにしていた。惚気話を延々と聞かされてもどういう感情でいたらいいかわからない僕とはすごい違いだ。それが男女の違いか、年齢の違いか、はたまた根本的な問題か……疲れるから考えるのはやめておこう。

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