9月22日(水)雨のち晴れ 栗原瑞姫の好奇心
明日が休みなので多少気楽な水曜日。この日は朝は雨に降られたけど、いつも通りの時間帯に登校して自分の席に着く。始業時間を考えるともう少し遅く家を出てもいいんだけど、信号待ちを含めて一度通学時間が固定化されると、それが体に染み付いているからなかなか変えられない。
「産賀くん、おはよー」
そう声をかけたのは僕が着席した直後にやって来た栗原さんだった。1学期で席が近かった時は大山さんを介して話すばかりだったから気付かなかったけど、栗原さんが学校に着く時間帯はおおよそ僕と同じだった。なので、席が隣になった最近はここで朝の挨拶を交わすようになっている。
「おはよう」
「ふわぁ~ 産賀くんさぁ、ちょっと聞いていい?」
「なに?」
「清水先輩とは結局どういう関係なの?」
眠そうな空気から出てくるとは思ってなかった質問に僕は一瞬固まってしまう。朝の挨拶はするけど、こんな話をするのは全然いつも通りじゃない。
「どういうって……あれは野島さんが言ってるだけで……」
「えー? でも、昨日産賀くんと清水先輩が一緒に帰ってるの見たって聞いたよ?」
「だ、誰から!?」
「えっと、産賀くんは知ってるっけ? 2組の……」
「ごめん。たぶん知らない」
「そう? あとあれじゃん? 体育祭の時も仲良く話してたの見たし」
そもそも栗原さんやその2組の誰かが清水先輩のことを把握しているのはどういうことなんだ。こういう噂はそんなにも広がるものなのか。
「それは知り合いだから話すくらいするよ。清水先輩とは単に先輩と後輩の関係」
「へー でもでも、清水先輩は校内五大美人とか言われてるらしいじゃん?」
「そうらしいけど……それが?」
「だったら、彼女にしてみたいって思ったりしないの?」
「な、なんでそうなるの!?」
「なんでって、せっかく美人の先輩と知り合いなんだし、男として独り占めしたいって思ったりしない?」
「そんなことは……」
「またまた~ 産賀くんだって恋愛に興味あるでしょ? 他の人のことを応援するくらいなんだし」
ニヤニヤとしながら聞いてくる栗原さんは恐らくからかうつもりはあっても悪気があって言っているわけじゃない。他人の恋愛事情に首を突っ込むのは良くなくても興味をそそられてしまうのは僕だってあることだ。
ただ、僕としては照れ隠しでも何でもなくそういう関係を否定しているのだからどうにも困ってしまう。
「それとこれとは話が違うよ。本当に……知り合いなんだ」
「そっかー ちょっともったいない気もするけど……」
「もったいない……?」
「だって、高校生の恋愛は高校生のうちにしかできないじゃん? そのチャンスを逃すのは何だかもったいないって」
「…………」
「なーんて、産賀くんが純粋に慕ってるなら全然それもアリだと思うけど。あはは」
最後に付け足した言葉も取り繕うわけじゃなくて栗原さんの本音だとは思う。でも、栗原さんの中心となる主張は近しい関係になった男女は恋愛する可能性が高いもので、その中で美人と言われる女子が近くにいるのに恋愛感情を抱かない僕が珍しいと言われている気がした。
僕も時折、清水先輩の何気ない言動や仕草にドキッとすることはある。だけど、それを独り占めしたいだとか、それ以上の関係に発展させたいだとか、そういうことはあまり思わなかった。
その後、栗原さんはこの話題を切り上げて何事もなかったかのようにしていたけど、僕はこのことが引っかかったままになってしまった。
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