9月14日(火)雨のち曇り オトコのコの会話

 今週も文芸部のミーティングが開かれて、文化祭に向けた創作物の提出が迫っていることが知らされる。体育祭が終わった後は祝日が何回か挟まるので、その時間を使えば提出は間に合いそうだ。


 ミーティングを終った後、僕はそのまま作業に移らず藤原先輩の席へ向かう。今日は藤原先輩に聞きたいことがあったのだ。残念ながら文芸部関連のことはないけど。


「藤原先輩、ちょっと聞いていいですか?」


「……? どうしたの……」


「……うちの高校のフォークダンスってどんな感じです?」


 昨日栗原さんから聞いて初めて知ったフォークダンスについて、僕は色々と不安があった。でも、女子の先輩方に聞くのは何か違う気がするから僕がすぐに聞ける唯一の男子の先輩である藤原先輩を頼ったのだ。


 すると、藤原先輩は考えるためか数十秒間動きを止めてから喋りだす。


「……普通?」


「ふ、普通ですか」


「……オレ……他のフォークダンスのこと、よく知らない……」


「それはそうですよね。えっと……聞きたいのはそのダンスが難しいかどうかなんです」


「……オレも適当に踊れてるから……そんなに心配いらない……と思う」


 藤原先輩の運動能力は僕からすると未知数だけど、恐らくそれほど難しいものではないようだ。それなら良かった。こんなギリギリで知って覚えられないようなダンスだったら周りに迷惑をかけるところだった。


 そんなことを考えて僕が安心していると、藤原先輩は僕を手招きした。最近は耳を近づけなくても藤原先輩の声が聞き取れるようになったから随分と久しぶりな気がする。僕は藤原先輩に近づいて耳を貸す。しかし、聞かれた言葉予想外のものだった。


「産賀くん……誰か気になる子が……いるの?」


「ぶっ!? な、なんでですか!?」


「……フォークダンスを気にするのは……そういうことかと……」


「いえ、そういうわけじゃなくて……というかフォークダンスってやっぱりそういう感じなんですか……?」


「……多からず……少なからず……男女双方ともある……らしい」


 わざわざ男女で組ませる必要性はわからないけど、生徒の間ではちょっとばかりイベントのようなものになっていたのか。そうなると、何となく女子の先輩方に聞かなかったのは正解だった。藤原先輩ならこれ以上追求することもないだろう。


「シュウとウーブくん、なに話してるの?」


 そう、こんな風に割り込んでくるソフィア先輩に聞かれたらまた勘違いされてしまう。


「な、なんでもないです。ね、藤原先輩」


「……うん、なんでも」


「……あー! わかった!」


「ええっ!?」


「二人してオトコのコの会話してたんでしょー!」


 謎に盛り上がりながらソフィア先輩はそう言うけど……完全に間違いではないのか。女子も同じフォークダンスで盛り上がるとしても男子とは内容が違うかもしれない。最も今ソフィア先輩が言ってるのは別の意味だろうけど。


「別にそういうのじゃないです」


「ソフィア……逆セクハラっていうのもあるから……」


「なんか今日の二人は連携取れてるね……?」


 僕としてはそのフォークダンスが藤原先輩とソフィア先輩にとってはどう見えるのかは気になったけど、今日のところはダンスが難しくないとわかっただけ良しとしよう。藤原先輩もラブコメを書くくらいだからこういう話には興味があるのだと知れたのもいい発見だった。

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