8月27日(金)晴れ ソフィアとシュウの夏休み
夏休み38日目。来週の火曜日は始業式前日ということもあってか部室は開けないことにするらしい。つまり、今日が夏休み最後の部活になる。途中休みを挟んだとはいえ、夏休み中決まった曜日に学校に来たのは中学時代の僕からすると考えられないことだ。
そんな夏休み最後の日の部活は……部室から始まらなかった。部室へ向かおうと2年生の廊下を進んでいると、見覚えのある二人が視聴覚室の前にいた。
「森本先輩、水原先輩、何して……」
「しー! 静かに!」
二人からほとんど同時にそう言われた僕は思わず手で口を塞ぐ。どうやら視聴覚室の中に耳を澄ませているようだ。僕は先ほどよりも小声で喋り始める。
「あの、ここでいったい何を……」
「今ねー ソフィアとシュート君が中に入ってるのー」
「えっ!? じゃあ、盗み聞きしちゃ駄目じゃないですか!?」
「産賀。声を抑えろ」
僕の声が大きくなったので水原先輩が怒る。水原先輩もこういう話に乗るのは意外だった。いや、藤原先輩本人に聞くくらいだから興味があるのだろうけど、まさかこんな姑息な真似をするとは。
「す、すみません。でも、いくらお二人が仲が良くてもこういうのは……」
「ウーブくんがどんな想像してるのかわからないけど、我々はあの二人の行く末を見守る必要があるのだよー」
「一応、ソフィアから今日は藤原と話をすることは聞いている」
「ああ、事前に外から聞いてもいいと……」
「いや、聞いてるのは私たちの独断だ」
やっぱり駄目じゃないですか、と心の中でツッコんでおくけど、それはそれとして僕もこの場から動けなくなった。今から部室へ戻ってもここが気になって何も集中できないだろう。
「それで……ソフィア先輩と藤原先輩は何の話を……?」
「日曜日にお祭りがあるでしょー? それに行こうってお誘いー」
「えっ? そのためにここを?」
「いやー それがあの二人は色々と面倒くさいんだよねー」
てっきり今日で告白でもするのかと思ったけど、普通にデート(?)に誘う話だった。この夏休み中に誰かを誘うのに苦戦している僕はとやかく言える立場ではないかもだけど、面倒くさいとはどういうことだろうか。
「というか、産賀。あの二人の関係を知っているのか」
「いや、水原先輩が部室内で聞いてたじゃないですか」
「そうだったか? そんな露骨に聞いた覚えは……」
「……! 二人ともー 動きがありそー」
森本先輩の合図に僕と水原先輩は扉を耳につける。というか、この瞬間まで話が進んでなかったことに驚きだ。想像以上に面倒くさい何かがあるのか。
と、その時。僕のスマホに通知が入る。
――産賀くん、部室が開いてるのに誰もいないのだけれど……?
岸本さんから当然の疑問が送られてきた。先輩方が通知音を鳴らしたことに非難の目を向ける中、僕はマナーモードにしてから返信して、再び耳を澄ませる。視聴覚室内の声はソフィア先輩のは聞こえるけど、藤原先輩の返事はさっぱり聞こえない。元々藤原先輩の声は大きくないけど、こういう場面で聞こえないのはいつも通りなのか、恥ずかしさからなのか。
「藤原のやつ、またこの感じか」
「まー そこがシュートくんらしいとこでもあるけどー」
先輩方からすると、今の藤原先輩の感じは何となくわかるらしい。しかも毎回こんな感じだと言うなら二人が心配になってしまう気持ちも少しわかってしまう。
「あの……」
そんな中、部室からやって来た岸本さんが傍から見るととても怪しいことをしている僕らに声をかける。今の状況を伝えづらいので、そのまま視聴覚室前にいると送ってしまった。
「皆さん、何をしているんですか……?」
「今ねー ソフィアとシュート君が中に入ってるのー」
「……? じゃあ、何で皆さんは入らないんですか?」
「あー……岸本ちゃんは知らない感じかー」
「産賀、岸本が知らないなら私は察せられるようなことを言ってないのでは?」
「そ、それとこれとは……」
「オホン!」
僕らがざわついていると、いつの間にか視聴覚室の扉からソフィア先輩の姿が見えていた。
「盗み聞きするならもうちょっと静かにして欲しいかなー それにしてもウーブ君や岸本ちゃんまでいるなんて……」
「あっ、いや、すみま――」
「いいからみんな部室へ行ってなさーい!!!」
珍しく先輩方含めてソフィア先輩に怒られてしまった。
部室へ撤退してから数分後。ソフィア先輩と藤原先輩はようやく部室へ来るけど、来て早々盗み聞きの件を続けて怒られるばかりで、夏祭りの話がどうなったのかわからなかった。もしかしたら僕や岸本さんは現場で出くわすことになるかもしれないけど……
「産賀くん、今日の話っていったい何だったの……?」
その時に岸本さんは察せられるだろうか。今日は理不尽に巻き込まれてしまった岸本さんには事情を話していい気もするけど、僕としてはもう少しそのままの岸本さんでいて欲しい。
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