8/18 Wed 未読2

 久しぶりの連絡を来てから数日。彼女のLINEには相手からメッセージが未だに送られ続けている。その度に理由を付けて誤魔化してきたが、それでも相手は諦めなかった。


――今度の土曜日会えないか?


 そうなるくらいならはっきりと断るか無視すればいいのはわかっているはずなのに、彼女はできなかった。それは彼女と相手の距離が大きく離れてしまった原因の半分は自分にもあると思っていたからだ。もしも相手が友達としてやり直したいのならもう一度だけと考えてしまう。


 けれども、それが彼女だけの望みになるのならまた同じ過ちを繰り返すだけだ。そうなるくらいならこのまま会わずにいた方がいい。そんな二つの考えが巡って、自分で結論を出せなくなってしまった。


 こんな時、誰に相談すればいいか。なるべく事情を話さないでフラットに話せる相手。今の彼女にはそんな人物が必要だった。例え明確な答えが貰えなくても話せるだけでいい。そうすれば何か見えてくるかもしれない。


(それなら……)


 そう思った時、彼女はある一人を思い付いた。相手からのメッセージをひとまず放置して、彼女はその人物にメッセージを送る。程なくして返事が返ってくると、彼女は電話を繋げた。


『も、もしもし?』


「あっ、お疲れ~ 今ってホントに時間大丈夫?」


『うん、何か用事?』


「それがお願いっていうかー 質問っていうかー」


『……もしかして、夏休みの課題見せてとか?』


「違うって! そんなワケないじゃん!」


 いつも通りのやり取りをしながら彼女はどう話すか考える。彼は特別察しがいいとは思わないが、真面目に考えるタイプだ。だとすれば、遠回しに聞くよりも本題を明らかにした方がいい。そう考えて話し始める。


「ねぇ、もしも中学時代に疎遠になった友達から会いたいって言われたら……どうする?」


『疎遠になったって……暫く会ってないとか、連絡してないとか?』


「そそ。あっ、そんなに難しく考えなくていいからね?」


 そう言ったものの、彼は暫く沈黙した。いったいどんな答えが返ってくるか、彼女は全く予想できない。彼以外の周りの友人であれば会ってみたらいいと言う人の方が多いだろう。だから、彼女はそれとは逆の答えをどこか期待していたのかもしれない。


 しかし、暫く考えた彼が放った答えはどちらでもなかった。


『……人によるかな』


「人による?」


『いや、疎遠になる前までがどういう感じだったかによると思う。例えばクラスが変わって話す機会が減った人なら久しぶりに会えるって考えるけど、喧嘩とかして話さなくなって疎遠になった人はちょっと遠慮したいって考えるだろうし』


「でも、喧嘩してたら仲直りする機会だったりしない?」


『それは……たぶん、仲直りできるなら疎遠になる前にできてるはずだよ。まぁ、そこまで険悪になることは少ないと思うけど……』


 ただ、彼の答えは彼女が悩んでいることに対する一つの答えではあった。中学時代に元通りになるタイミングはいくらでもあったはずだ。彼女も動かなかった部分あるが、それ以前に相手は彼女との距離を意図的に置いた。そんな相手が今になって「やり直したい」というのはやはり彼女が望んだことにはらないのだろう。


『もちろん、疎遠になってる期間とか関係性とかは人によって違うから全部そうなるとは……』


「もう、難しく考えないでいいって言ったのに、真面目なんだから」


『そ、そうだった。それで、これで何がわかるの?』


「えっ?」


『あれ? 何か心理テスト的な話かと思ってたんだけど……』


「……あー! はいはい。残念だケド、回答は二択だったから該当ナシ!」


『ええっ!? 会いたいか会いたくないかで答えるヤツだったの!?』


 何も知らずに驚く彼の声を聞いて、彼女はクスリと笑ってしまう。ただ、そんな彼こそ彼女が求めていた相談相手だった。


「それじゃあ、ついでもうちょっと話してもいい?」


『いいけど……時間は大丈夫?』


「……うん。アタシ、結構暇人だから」


 結局、彼女はそれ以降の誘いを全て断る返信を最後に相手からのメッセージを読まなくなった。ただ、彼の言葉だけでそういう結論になったわけではない。彼女もどこか断る理由を欲していたから、今回は理由付けとして彼が当てはまっただけだ。


(これでいいんだよね)


 彼女の根本的な燻りはまだ消えそうになかった。

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