6月30日(水)曇り 大山亜里沙との会話その13
6月最終日。清水先輩の件を言い訳にしたところで授業をボーっとできる理由にはならないから気を取り直しつつ日常へ戻っていく。来週には期末テストが始まってしまうから勉強に気は抜けないのだ。
だけど、そう簡単にいつも通りには戻れないから今日も大山さんとの会話は本田くんに任せることにした。5時間目の現社が終わってノートを貸し出すと、僕は速やかにお花を摘みに行く。
ここ最近で大山さんと本田くんの仲は中学の時以上に良くなっていると、僕は何となく実感していた。本田くんの恋煩いを知って以来、具体的な話は本田くんから聞いていないけど、僕がそうであったように、席が近いことは仲良くなる要因になったと思う。
そんなことを考えながらその日の授業を終えて、テスト前週間で部活もないから松永と一緒に帰宅しようと下駄箱に着いた時だ。
「うぶクン! ちょっと待って!」
「……大山さん? どうかしたの?」
「ちょっと……話があるんだケド」
大山さんが松永の方に目を向けると、「俺は先に帰ってる」と言ってくれたので僕は大山さんに付いて行った。しかし、わざわざ放課後に呼ばれるほどの用事が何かさっぱりわからない。
下駄箱から少し移動して、購買がある広間まで行くと大山さんは立ち止った。部活はないけど、放課後は購買が締まっているからこの時間だとあまり人は集まらない場所だ。
「それで話って?」
「あのね、うぶクン。アタシ……最近なんかした?」
「えっ? なんかって……何?」
「……うぶクン。最近アタシのこと、避けてるでしょ」
「……ええっ!?」
僕は普通に驚いてしまった。いや、今日に限っていえばちょっと避けた気もするけど、最近と大きく括られるとそんな覚えは全く……
「いやいや、全然そんなことないよ。ほら、一昨日とかも本田くんと一緒に混ざって……」
「混ざってる風で話聞いてるだけだった」
「ま、まぁ、そういう日も……」
「だから、最近そういう日ばっかで……」
覚えがあった。ここ最近の僕は大山さんと本田くんに何とか接点を持って貰おうとして、会話に関しては聞きに回るばかりだったのだ。これは……まずい。僕の独断の行動で本田くんの恋煩いまでバレたら余計なお節介で台無しな結果を招くかもしれない。
「え、えっと……なんていうかその……五月病をまだ引きづってる感じがあって……」
「本当に……?」
「それは……」
だ、ダメだ。どう誤魔化そうにも本田くんのことを話さないなら不自然になってしまう。今週は僕の厄週なのか。このままだと大山さんとの仲まで……
「うぶクンさ。もしかして、アタシの噂……聞いた?」
「えっ? う、噂って……」
「聞いたかどうか、答えて」
ひどく真剣な表情をする大山さんに、僕は少し後ずさりしてしまう。大山さんとの噂。それに思い当たることは一つしかないけど……本人の前で言うのはなかなか心が痛い。でも、言うしかない。
「き、聞いた。僕と大山さんが……付き合ってる風に見られてるって」
「…………」
「本当にごめん! 大山さんに迷惑かかってたら申し訳なく……」
「……なんだ」
「お、大山さん?」
「うぶクン、それで委縮しちゃってだんだー! もー、びっくりさせないでよ~」
先ほどとは打って変わって普段通りの大山さんらしい表情になって、今度は僕はポカンとしてしまう。
「大山さんも知ってたんだ……」
「まぁ、そりゃね。でも、その話題けっこう前の話だよ? GW空けてすぐくらい」
「ええっ!? そ、そんなに前の話だったんだ……」
「よし、それがわかったなら……うぶクン、遠慮しなくてもいいよ☆ もうとっくにネタの鮮度は過ぎてるから! 今の話題は……」
「あー! 別に聞きたくない! ただでさえ、自分のでも妙な気持ちになったんだから!」
「そう? 衝撃の話題なんだケドなぁ」
他人の恋路になんとやらだ。僕の場合は風評被害だけど、もし本人たちがその気なのに噂で潰されてしまったら罪悪感を覚えてしまう。
「あっ、まだ遠慮しないって返事聞いてない。どうなの?」
「わ、わかった。遠慮しない。話題が過ぎてるのも知れて良かったよ」
「うんうん。はー! すっきりした☆」
「わざわざ時間取って貰ってごめん」
「じー……」
突然、大山さんに見つめられる。なんだろう。まだ何かやらかしがあるのだろうか。
「うぶクン、気を遣ってくれるのはいいんだケド……自分が悪いって決めつけて謝り過ぎるのはどうかと思うよ?」
「えっ? それはごめ――」
「じー……」
「……忠告ありがとう」
「うん、それでよし! じゃあ、途中まで一緒に帰ろっか?」
何とか本田くんの秘密と大山さんとの友情を死守することができた。これからは露骨に聞きに回らず、僕も話へ参加しよう。そう思えたのは何より久しぶりの大山さんとの会話がこんな内容でも楽しかったからに違いない。
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