5月13日(木)曇り 本田真治の問答

 この日は昼食後に松永と大倉くんが用事があって教室から離れていた。つまり、珍しく僕と本田くんの二人きりになる。


「そういえばさ、3時間の授業……」


「そうか。オレは……」


 本田くんとは友達であることは間違いないけど、大倉くんのように趣味がある程度合うわけじゃないから話す内容は学校のことが中心で良くも悪くも普通の会話だ。話題の盛り上がりではやっぱり松永がいないといけない……と僕は思っていた。


「良ちゃんは……」


「うん?」


「……好きな女の子タイプとかある?」


 だから本田くんからそんな質問が飛んでくるとは思っていなかったのである。


「す、好きなタイプ!?」


「ああ。こういう話題は松永がいると、変な方向にいくからいい機会だと思って」


 確かに松永がいると、下の方に寄る傾向がある気がする。でも、いい機会かと言われると、突然のことだから僕は焦ってしまう。


「タイプって……どういう感じで答えるの?」


「身体的特徴でも、性格でも、何でもいい。それで?」


 思ったよりも押しが強い本田くんに僕は考える。本田くんも本当はこういう話がしたかったんだ……じゃなくて、女の子のタイプだ。しかし、いきなり言われると結構困る質問だ。芸能人で例えるやつは知っている芸能人が限られていて、あまり使えないのが痛い。


「オレは……積極的な子が好きだ」


「えっ!?」


「オレが口下手だから相手が積極的に話してくれる方がいいって思ってる」


「な、なるほど……」


 そんな僕を追い詰める……いや、むしろアシストしてくれたのか本田くんは自らの好みを開示した。そうか。そういう感じでいいんだ。積極的か消極的か。元気か大人しいか。パッションかクールか……


「僕は……身体的特徴とか性格とかじゃなくて、波長が合う人がいいかな。もちろん、性格や話しやすさも含まれてるとは思うけど、なんていうか……もっと別の部分で合う人」


「…………」


「ほ、本田くん?」


 完全に失敗した。割と真面目に考えたらなんか気取った風な答えになってしまった。別にちょっとした会話なんだから気を遣わず、巨乳とかクーデレとかわかりやすい答えにすれば良かったのに。


「良ちゃんらしいと思う」


「えっ!? そうかな?」


「ああ。波長……いい考え方だ」


 でも、本田くんはその回答でも好意的に受け取ってくれた。会話の盛り上がり的には駄目だった気がするけど……そもそも本田くんはどうしてこの話を振ったんだ?


「ただ……ちょっと優等生過ぎるかな」


「や、やっぱり?」


「冗談だ。それよりこの学校には三大美人っていうのが……」


 それから本田くんと男の子らしいトークをすることになった。みんなで話すのと二人きりで話すのは何だか恥ずかしさが違ってくる気がする。でも、これから本田くんともう少し距離を縮めるなら……こういう話をしていくことになるのかもしれない。

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