5月9日(日)晴れ 感謝を伝えられる日

 今週は貴重の休みとなる日曜。昨日は大倉くんとの通話を早めに切り上げたので、寝るばかりの日にはならずに済んだ。いや、そもそも今日は寝てばかりいられない日だ。


「お母さん、ハッピー……マザーデー、でいいのかな? とにかくいつもありがとう~」


 明莉はそう言いながら母さんに小さなプレゼントを渡す。そう、本日は今年度の母の日だ。いつから始まったか忘れたけど、父さんと母さんの誕生日と父母の日、後は結婚記念日には僕と明莉から何かしらのお祝いするようになっていた。

 

 母さんが明莉のプレゼントを開けると、中にはスカーフが入っていた。


「ありがとう、明莉。今度どのお洋服に合うか見て貰おうかしら」


「今度と言わず今やろうよー あっ、りょうちゃんはその間にお願いね!」


 母さんは明莉に連れていかれたので、僕は自分のプレゼントに取りかかることにした。去年は僕もそれらしい花を買いに行ってプレゼントにしたけど、今年は違う。ちょうど先週の火曜日に作ったオムライスの写真を見た母さんが「私も食べたい」と言ったから料理をプレゼントすることになった。


(明莉が写真撮ってなかったらこうならかっただろうな)


 僕としては別に嫌というわけじゃないけど、明莉と違って母さん(とついで父さん)に自分が作るものを食べられるのは、妙な恥ずかしさというか、僕の料理でもいいのかという感情が出てきてしまう。


(とにかくレシピ通り……レシピ通り……)


 前回と違って今回は鶏肉を買ってきたからより本格的なオムライスになるはずだ。何となくではなく今回も分量に従って、僕は料理を進めていく。


 それから夕飯の食卓には僕の作ったオムライスが4つ並ぶ。母さんはそれを嬉しそうに見ていた。


「さて、良助の料理を味わおうかしら」


「サイトの料理でレシピ通りだから間違いはないよ」


「そういうことじゃなくて、良助が作ったからいいんでしょ」


 母さんの言葉に父さんも「そうだぞ」と続ける。そう言われてもやっぱり照れくさいから僕は「そんなことは」と言い訳してしまう。


 そして、母さんが「いただきます」と言って食べ始めると、僕はなるべく母さんの方を見ないようにしながら最初の言葉を待つ。


「……うん、おいしいわ」


「でしょー? りょうちゃん腕上げたんだー」


「これなら明莉も色んなメニュー頼めるわね」


 それに対して「父さんも明莉が言えばなんでも作るからな?」と余計な言葉を挟まれるけど、母さんに褒められたのは素直に嬉しい。


「母さん、いつもありがとう……やったらわかるよ、料理が大変なの」


「あら、そう? 私はお惣菜とかレトルトとか使ってるから意外と楽してるわよ」


「それでも毎日続けてくれてるから……本当に凄いと思う」


「りょうちゃん、耳真っ赤だ」


「そ、そんなことない!」


 その後も僕はやたら持ち上げられてしまったけど、食卓はいつも以上に賑やかで楽しいものだったのは間違いない。


 両親に感謝しているのは、僕としては当たり前のことだ。でも、思っていることをちゃんと伝えられる日っていうのは、例え無理やり設定された日だとしてもありがたいものだと思った。

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