第12話 初等学校時代
それからの勇者クラスでの学園生活は、まったく面白みに欠けていた。
武器や魔法の訓練は、俺にはまったく無意味なのでただ見学しているだけ。
模擬戦やダンジョンの実戦は、パーティメンバーが全員揃わないと参加できないことになっており、一回目以外は参加できたことがない。
このままだとレベルを上げられず、俺は強くなるどころか落ちこぼれのままだ。
何しに冒険者学園に来ているか分からないし、Cクラスの奴らを見返すこともできない。
そんなもどかしさが募り、俺は授業中に十代の若者相手にブチギレてしまった。
「おまえら、もう少し真面目にやれよ! 武器や魔法の訓練はいいからさ、模擬戦やダンジョンの実戦ぐらい参加しろよな! ここって冒険者学園だよな!?」
俺は机を叩き、立ち上がった。
「おい、テツヤ! うるせえぞ! イラつくから静かにしとけ!!」
ブラッドリーが睨んできた。
こいつを説得できそうな気がしない。
「セシリアたちはどうなんだ? 強くなるために冒険者学園に入ったんじゃないのか!?」
「キミ、なに熱くなってるの? そんな一生懸命やって楽しい? それに武器や魔法の訓練もちゃんとやらないくせに、何言ってるのさ。意味分かんない」
セシリアは一瞬だけこちらを見ると、目線も合わさず答えた。
不思議そうな顔をしているエメラインには、言っても仕方なさそうだ。
アレックスはこちらに興味すら示していない。
「先生! パーティの交代とかってないんですか!?」
「テツヤ君。授業中は落ち着きなさい。パーティのメンバーはクラスでも変わらないかぎり、三年間同じです。交代なんか考えずに、メンバーと仲良くやっていくことを考えなさい」
担任の野郎。このメンバーと仲良くなんてなれるわけないって、分かってるくせに言ってやがるな。
「クソッ!」
俺は机の脚を蹴とばした。
「テツヤー、俺に喧嘩売ってんのか! あっ!?」
ブラッドリーは立ち上がると、顔を近づけ睨みつけてくる。
なんだよ、まじやってらんねえな。
俺はブラッドリーから目線を逸らすと、黙って席に座った。
俺が何を言っても、こいつらは何も変わらないだろうし、変えられないだろう。そう諦めの気持ちが強くなっていた。
「なんだ? やらねえのか? つまんねえ野郎だな」
ブラッドリーはそう言って、教室から出ていった。
当たり前のように担任は注意しない。
そもそも俺がさっき言った言葉は、担任が言うべき台詞じゃないのだろうか。
なのに代わりに言ってやった俺が注意されるとか、まったく納得がいかない。
担任も、クラスの奴らも、どいつもこいつもムカつくな!
俺は悶々とした気持ちのまま授業を受けた。
授業が終わると、俺はいつものようにまっすぐ寮を目指した。
部屋に戻ってもアレックスとは会話もなく、やることもないのだが、どこかに寄るようなところもない。
「テツヤくん、あんたよくあの三人にあんな口きけるよな。怖くないの?」
突然、隣の席の男子が帰りに声を掛けてきた。
「? あの三人?」
「ブラッドリーくんたちさ。俺なんて怖くて顔も見れないっていうのに」
たしかに、高校の頃にブラッドリーみたいな奴がクラスにいたら、俺もビビっていたかもしれない。
ただ、俺は中身は大人だし、この世界の人間でもない。ビビるよりムカつく方が先だ。かと言って喧嘩をするつもりもないが。
「そりゃあいつらは俺なんかより強いけど、別に怖くなんかないさ」
「そっか。そうじゃないと、あの三人と一緒のパーティなんかやってけないか。テツヤくんは見た目より強いんだな」
「はは、どうだろうな……。てか三人? 二人じゃなくて?」
俺は三人目が気になった。
「もちろん、ブラッドリーくんと、アレックスくんと、セシリアさんだよ」
「セシリア? 別にセシリアは怖くなんてないけどな。多少生意気なところがあるけど」
「あれ? テツヤくん、もしかして三人のこと知らないの?」
「ん? どういうこと? 勇者クラスで初めて会っただけなんだが」
「なるほど、だからか。テツヤくんはよっぽど遠い地方から来たんだな。東のアレックス、西のブラッドリー、南のセシリアって聞いたことない?」
「え? なにそれ?」
「俺らの世代では有名な三人さ!」
彼が言うには、初等学校時代、三人とも手のつけられない暴れん坊な上、その強さは王国全土で見てもずば抜けていたため、他校にまで名前が知れ渡っていたという。
王国南部で有名なセシリアは、どんな男子にも負けたことがない風使いのセシリアと呼ばれていたようだ。
「あの三人がねえ……」
なんだか不良漫画のような展開になってきた。
「うん。冒険者学園に入ってからは、みんな大人しくなったみたいだけど」
「なるほどな。でも、そんな三人なら、なんで魔王クラスじゃなく勇者クラスなんだ? やっぱ問題児だからか?」
「いや、そういうわけじゃないと思う。魔王クラスは、貴族しか入れないからな。平民の彼らには無理だ。ちなみに勇者クラスは平民だけしかいないぜ」
貴族だけが入れる特待生クラスか。こういう世界にはありがちな設定だな。
それだとしても、彼らならせめてAクラスなのでは? とは思ったが、これ以上詮索しても仕方ないので、聞くのはやめておいた。
貴族のエリートが集まった魔王クラスに、平民の落ちこぼれが集まった勇者クラス。なんだか差別社会って感じがするな。
そうなると、勇者クラスに落とされた俺は平民ってことになるのか。
相変わらず俺は、この学園生活で明るい未来が見えないでいた。
翌日、休日のためやることがなく、俺は朝から暇を持て余していた。
アレックスがいたところで話すこともないが、休日、彼はだいたい朝から出かけている。
せっかくの異世界だ。俺も学園の外を見て回ってみたいのだが、お金もないし、友達ができたら一緒にと思っていたため、今までは学園の敷地内で過ごしてきた。
ただ、今日は昨日のムシャクシャした気持ちが残っているので、敷地内を散歩しているうちに、外へ出てみる気になった。
「外に出ても大丈夫そうだな」
門の近くまで行くと、たくさんの生徒が学園を出入りしているのが見えた。休日に学園から出ても校則違反になったりはしないようだ。
俺はその流れに混じり、入学後、初めて学園の外に出た。
「おおぉ、すげえー!」
この世界に来た初日は周りを見る余裕もなかったが、改めて見ると王都セントグレスリーの街並みは、想像していたとおり中世ヨーロッパ風なファンタジー世界だった。
王都というだけあり行き交う人はかなりの数で、人間だけじゃなくドワーフや獣人など他の種族も歩いている。
石造りの建物はSNS映えしそうなカラフルな色合いで、人を魅了するために作られた観光地にでも来た気分だ。
こんな場所で人々が暮らしているなんて想像もできない。
あまりにも違う文化なので、俺は初めて海外旅行をしたとき以上に衝撃と感動を覚えた。
「ホントに異世界に転生しちまったんだな……」
今さらながら、改めて自分の境遇を理解した。
それから、街を少し散策していると、大通り沿いには街灯があることに気付いた。
そういえば学園の校舎にも寮にも電灯のようなものがあった。もしかしてこの世界にも電気があるのだろうか。電線のようなものは見えないが。
魔法が発展している世界となると、ゲームやアニメでは電気はないのが普通だ。
それに、歴史はあまり詳しくないので、中世ヨーロッパに電気があったのかは分からないが、ちょっと似つかわしくないような気もした。
魔法と科学、両方が存在する世界ってのもあるかもしれないな。
俺はそんなことを考えながら、王都セントグレスリーを観光気分で歩いていた。
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