第10話 ダンジョン実戦
訓練の意味がなくなった俺は、次の実技授業からはパーティメンバーの奴らと同じように、手抜き参加することにした。
一応、あいつらみたいにバックレることはしないつもりだ。
「おいテツヤ、じゃあ後よろしくな」
スキルポイントに気付いてから二日後、武器訓練の授業は四人とも参加してきたが、いつものように軽く流すだけで、もう何もしないようだ。
俺の空振りショーでも見学するつもりだろうが、今日からそうはいかない。
俺はもう空振りはしないし、必死で訓練もしない。
武器置き場から棍棒を取り、俺は的に向かって攻撃をした。
バシ!
いい音とまではいかないが、攻撃が的に命中した。
「!!」
皆が驚いて俺を見ている。
「ねえ、テツヤ君。キミ、スキルレベル上がった?」
「ああ、そうみたいだ」
俺はセシリアに答えた。
正確には上がったのではなく、上げたのだが。
「そ、そう……、良かったわね」
セシリアは怪訝そうな顔をする。
これだけ訓練してきたのに上がらなかったので、もう上がらないのではとでも思っていたのだろう。
残念。俺はもう、この前までの俺とは違うのさ。
「今日はこんなもんかな。みなさん、やるならどうぞ」
俺は武器を置くと、いつも言われていることを言い返した。
すこし皮肉っぽく聞こえたかもしれないな。
「チッ!」
ブラッドリーが舌打ちをして立ち上がると、何も言わずに去っていった。
もっと絡んでくるものと覚悟していたが、思ったより反応がなかった。俺が気に食わなかったのは間違いないなさそうだが。
それから、残った三人は午前中の授業が終わるまでバックレることはなかった。
もちろん訓練をするわけでもなく、女子二人はおしゃべりをし、アレックスは寝転がっているだけだった。
俺はというと、できればセシリア達の会話に混ざりたかったが、Cクラスにいた普通の女子と違う雰囲気の二人に、どうしても入れなかった。
アレックスと会話をするわけでもないので、何もしない結構苦痛な時間が過ぎていった。
午後、魔法訓練の授業に、いなくなったブラッドリーも含め、四人とも参加してきた。
ブラッドリーとアレックスが魔法訓練に参加するのは俺が来てから初めてだ。
セシリアとエメラインは、いつものようにフレイアローを一回ずつ使った。たぶん、二人とも火属性のスキルレベルが高くないのだろうが、なぜか得意な属性の魔法を使わない。
ブラッドリーとアレックスは、二人ともキャリーという魔法を唱えた。
攻撃魔法とかではなく、ただ物を動かすだけの魔法のようで、置いてあった武器が少しだけ浮くだけだった。
「おっし、テツヤ、てめえの番だ!」
四人が一通り魔法を使うと、ブラッドリーが俺へ言った。
今までなら、あとは俺が黙々と訓練し、他はいなくなるか適当にくつろいでいるのだが、今回は雰囲気が違う。
明らかに俺に注目している。俺が魔法を使うのを待っている。
まさか、そのためにブラッドリー達も参加してきたのだろうか。
まあいい、一回だけ見せてやるよ。
「ブロック!」
俺は魔法を唱えると、一昨日と同様に、全身が光り防御力が上がった。
どうだ、見たか!
俺は四人を見渡した。
ブラッドリーは予想通り、俺が魔法を使えるようになって苛立っているようだ。
あんな不愛想なアレックスも、俺が魔法を使えると不思議なのか、こちらを観察している。
エメラインからは感情を読み取れないが、セシリアは困惑している感じだ。
「キ、キミ、魔法のスキルも上がったの?」
「あれで上がったって分かるのか。ああ、そうだ」
「そう……。でも今のって……」
セシリアはまた怪訝そうな表情をした。
「ところでさ、レベルってどうやったら上がるんだ? スキルレベルじゃなく、総合レベル? 基礎レベルって言うのか?」
「レベルの上げ方? やっぱりキミ、そういうことも知らないのね……。レベルは模擬戦をするか、モンスターとの実戦で経験値を稼ぐしか上がらないわ」
「模擬戦かモンスターとの実戦ね。それは学園の授業であるのか?」
「もちろんあるわ。クラスのパーティ同士で模擬戦をするはずだし、来週はダンジョンで実戦授業よ」
「ダンジョン! そうか、そういうのもあるのか。それは楽しみだ」
「そうね……、楽しみね……」
セシリアは小さな声で答えた。
「じゃ、あとはどうぞ」
俺は空いているベンチに座りながら言った。
「へっ、アレックスの話、本当だったようだな。俺は行くぜ」
ブラッドリーはまたも訓練場を後にした。
アレックスの話ってのが少し気になったが、ブラッドリーのことは気にしても仕方ない。
「私たちも、今日は終わりにするわ」
セシリア達も午後はサボるようだ。
いつの間にかアレックスの姿もない。
また、独りで残されたか。
と言っても、誰か残ったところで一緒になにかするわけでもない。まだ仲間って感じがしないしな。
そんなことより、来週のダンジョンでの実戦の方が気になった。
やはり剣と魔法の世界っぽく、ダンジョンがありモンスターがいるようだ。俺はそこでレベルを上げ、ガンガン強くなってやろうと思った。
翌週になり、最初の実技授業がダンジョンの実戦だった。
面白いことに、ダンジョンの入口は冒険者学園の敷地内にある。
「では、今日からダンジョン実戦形式をやります。皆さんはパーティ毎にダンジョンに入り、地下二階の最深部を目指してください。レベル一桁のモンスターしかいませんが、メンバーの誰か一人でもHPが半分になったら、すぐにでも撤退してくるようお願いします」
ダンジョンの入口で、パーティ毎に集まり担任の説明を聞いていた。
「なんだよ、しょべえ実戦だな。それなら訓練でもしてたほうがマシなんじゃねえのか?」
ブラッドリーが馬鹿にしたように言ったが、ろくに訓練も出てない奴が何を言っているのだか。
「それでは、第一パーティから順番に開始してください!」
担任の号令で、一つ目のパーティがダンジョンへ入って行った。
うちのパーティは第四パーティ。
他のパーティがいなくなってから順番が回ってきた。
「オラ、てめえら行くぞ。こんなだりいもんはさっさと終わらせようぜ」
ブラッドリーがパーティに声を掛け、ダンジョンに入って行った。
別にアイツがリーダーというわけじゃないが、他のメンバーもそれに従いダンジョンに入った。
「ダンジョンか……、さすがに緊張してくるぜ……」
期待と不安が混ざった感情。
懐かしい、こういうのはいつ以来だろうか。
新しいことに挑戦する、これも一つの青春だな。
俺は持っている棍棒を強く握りしめ、四人の後について行った。
ダンジョンの中は薄暗く、床や壁、天井は人工的な石造りで、想像していたとおりゲームの地下ダンジョンのような場所だった。
地下だけあって、外よりはだいぶ温度が低い。
俺たちは、誰ひとり話すことなく、ダンジョンの中を黙々と歩いていた。
ブラッドリー達と言えども、やっぱり新入生なのだから、初めての実戦で緊張しているのかもしれない。
「なにかいるぜ」
ブラッドリーが立ち止まった。
たしかに彼の視線を追うと、そこに動く影が一つ見えた。
モンスターだろうな。俺は目を凝らすと、その影のステータスを見ることができた。
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名前 スライムA
レベル 5
種族 スライム
HP 15/15
MP 2/2
攻撃力 6
防御力 4
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「スライムか! まずは雑魚モンスターの代表ってことだな!」
俺はスライムとの遭遇が楽しくて、思わず声に出した。
「……」
?
今一瞬、パーティのメンバー皆が俺を見たような気がした。
「スライムか。地下一階はこんなもんだろうな」
ブラッドリーは素早くスライムとの距離を詰めると短剣で攻撃した。
すると、音と共に与えたダメージ数がスライムから見えた。
なんだこれ。
超リアルなMMORPGみたいで面白え!!
ブラッドリーの与えたダメージは、スライムのHPを越えていたため、一発でスライムは倒され、そのまま姿が消えていった。
どうやらモンスターは死ぬと消えてしまうみたいだ。
「ったく、つまんねえダンジョンだ」
ブラッドリーはそう文句を言うと、再び進みだした。
その後も、現れるモンスターはスライムばかりだった。
戦うのはブラッドリーとアレックスだけで、必ず一撃で仕留めるため、残りの三人の出番がない。
正直、自分でも戦ってみたいのだが、まだちょっと実物大のスライムにびびっているのも事実だ。
俺はもう少し様子見してみることにした。
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