h.23.04.13. うたい。


 符号のままに奏でる隣で、歌い出す前の呼吸が聴こえ それだけで鮮明に滲んだ。

 今までだって何度でも気付けた筈なのに、その一音で全てよぎった。


 少し困った。饒舌な指先の感触も思い出した


 君は道の花に触れるよう口遊くちずさみ、僕は山影に沿う落葉と爪弾いた。


 泣き出しそうな歌声を憶えている


 歌い。

 君は歌い、

 僕の名で問い、

 歌い。

 君が歌い、

 月は秒針のように震えた。


 随分と経つよ

 まだ歌う事があるのなら 眠るように閉じた声をもう一度


 違う灯りの下で生きていた僕らが、

 少しの間会えた、あの黎明の色を憶えている。



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