偽名を知る

 わずかな手掛かりもありがたい鈴木くんは降車した。

 手助けを買って出た秀真くんに、辻氏も付き合うと申した。

「顔は俺にあんまり似ていねくてよ、名前はおそらく《井口》って偽名だど」

 偽名を使うような身内は、普通身の周りにはいないと思われた。

「んだけっとも、いつ頃からそんな風になったのか知らねえけっと、下手くそな関西弁しゃべっからよ、聞いているだけでいかにもいずいがら、そこでわかる。

 頼む。そんな兄貴でも、少しでも真人間に戻さねばならねえ。助(す)けてけらいん」

 本柳町からどこへ向かうだろうか。込み入った道で、知り合いにでも匿われたら、手も足も出ないだろうが、探さぬわけにはまいらぬ。

 立町、元櫓町、元鍛冶町と手分けをし、東一番丁まで探して一時間後にカフェー・プティ・シャ・ノワ前で落ち合うこととした。

「どこかの店で、どうにも話をつけなければならないような時は、呼んでくれたまえ」

 楽士の辻氏であれば、いくらか利かせることができる顔もあろう。

「ありがとうござりす」

「では、のちほど」

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