第71話 想い2

「あなたが……好きでした。恋は……あなたにしていました」

 

 彼は一心にリアを見つめる。


「リア……」

 

 ジークハルトは腕を伸ばし、胸の中へとリアをかき抱いた。


「オレは君を失いたくはない、決して。他の男に奪われるのは、嫌だ……」


 リアは彼に抱擁され、心臓が跳ねる。


「ジークハルト様……他の男というのは……?」

「君の兄弟と、ローレンツ、イザークだ。今回は、ヴェルナー」


 リアは身動きがとれないなか、非常に戸惑った。


 ……どうして彼は、これほど悲愴に思いつめているのだろう。

 リアが他のひとを想っていると。

 

 彼の心は深い傷を負っている。

 自らの行動を振り返り、リアは反省した。


(……イザークとの噂については、きちんと誤解を解いておくべきだった……行動も気をつけるべきだったわ)


 ただの噂だし気にしないようにと、毅然としようと思った。

 これほど彼が苦しんでいたのなら、ちゃんと説明すればよかった。


「ジークハルト様……」

「オレはみてきたんだ……」


 彼は震える声を発した。


「一度目は、オスカー。二度目はカミル。三度目は、ローレンツ。四度目はイザーク。君は彼らと恋におちた」


(……どういうこと?)


「ジークハルト様……申し訳ありません。私、意味がよくわかりませんわ」

「今までの人生だ。オレはこれが五度目の人生だ。ジークハルト・ギールッツとして、今までも四度生きてきた。転生を繰り返している」


(嘘……) 


 愕然とするリアに、彼はこれまでの人生を、とつとつと語った。


 リアは蒼白になってそれを聞いていた。


「──たぶん君の契約している魔物に触れたことがきっかけで、これまでの人生の記憶を得た。こんな話、信じられないだろう? おかしくなったと思うだろうな。自分でも何が現実で、何が夢なのか、時折わからなくなってしまう。記憶を得たあとから、眠ると、前世の悪夢をみる……」


 彼は掌で目元を覆う。


「四度とも、君とイザークの仲をオレが誤解し、はじまった。オレは君と絶対に婚約破棄しないと、過ちを繰り返さないと決意した。だがオレはこの生でも過ちを犯した。君は、オレ以外なら誰でもいいと……。……きっと君はまた、違う相手との恋に出逢うのだ」


 彼は泣きながら笑う。

 彼の壮絶ともいえる絶望を感じ、胸の一番深い場所が軋む。


(ジークハルト様……)


「何度生まれ変わっても、オレは君と結ばれない運命……」


 感情が昂っている彼の手を握りしめ、リアは唇を寄せた。

 彼は目を見開く。

 

 リアはそっと口づけを解いた。


「……リア……」

「ジークハルト様、どうか落ち着いてください。私はあなたを信じますわ」


 彼はこれが五度目の人生だ。

 しかも思い出したのは、ついこの間。混乱するのは仕方ない。

 リアも記憶を得てしばらくは、激しく感情が乱れた。

 

 息を吸い込んで、リアは告げた。


「私も、自分自身に転生しております。私の場合は、これが二度目の人生で、思い出したのは数年前なのですが」

「君も転生を……!?」

「そうです。でも私の前世は今ジークハルト様から伺った、そのどれでもありません。前世、私は他の誰とも恋をしておりませんでした。ジークハルト様に婚約破棄されたあと、旅に出たのです。全て鮮明に覚えているという訳ではありませんが……。ジークハルト様が触れた魔物は、その旅の中で契約しました」

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