第58話 ヴェルナーへの連絡
外のことがまるでわからなかった。
公爵や友人から手紙が届きはするが……。
今、ヴァンはどうしているのだろう。
呼びかけても、姿をみせなかった。
たぶんジークハルトが言っていたように、帝国外に飛ばされた。
その後、国内に入ってくることができなくなっているのだ。
ジークハルトは皇家の直系で、帝国内の魔物を排除する力がある。
皇家の人間は大昔に、そういった力を精霊王から授かったといわれている。
兄と弟、イザークが留学し、ローレンツが国境の街に赴任したのは事実のようで、侍女たちが麗しい方々が皆、帝都からいなくなり、寂しくなってしまったと話していた。
公爵の手紙でも、兄と弟の留学について書かれていた。
舞踏会のあと、リアはヴェルナーと旅に出る予定だった。
ここに連れてこられてからは、全く連絡を取れていない。
彼までまさか、すでに国外ということはないだろう。
◇◇◇◇◇
「どうした。食べないのか」
ジークハルトと共に部屋で食事を摂るのが、ここに来てからのリアの日常だ。
「ジークハルト様」
「なんだ」
「いつまで、私をここに置いておくおつもりですの?」
ジークハルトは当然とばかりに言葉を返す。
「ずっとだ。君は貴重な『闇』術者。保護する目的もあって皇宮に連れてきた」
リアは淡く息を零した。
(行動を制限されることを両親は危惧して、私に内緒にするようにと言ったんだわ)
「きちんと食事をとれ」
テーブルに贅沢な料理が並んでいる。だがジークハルトも余り食べていない。
「……ジークハルト様……どうなさったのですか? なんだかおかしいですわ。何があったのですか?」
リアが『闇』術者であることは、彼は公にしていないし、それだけで自分を置いたとは思えない。
侍女たちが言うような、結婚が待ちきれずにというものでもない。
リアは自身と家族の境遇についても悩むが、こうして前に座るジークハルトのほうが余程、悲愴だ。
「別に何もない」
「そんなふうには思えません。体調も良いようにはみえません」
「オレの心配をするのであれば、食事をとってくれるか」
強く言われ、リアは渋々頷く。
「……わかりました」
リアが料理を口にすると、彼はほっとしたようだ。
食事を終えたあと、彼に言い募った。
「私、連絡したいひとがいるのです」
「君の兄弟ならこの国にいない。幼馴染もそうだ」
彼らのことも気になるが、手紙で状況は大体わかっている。
女友達や、リア付きであるメイドのイルマの手紙も、公爵の手紙と一緒に届けられている。
しかしリアからは、誰にも連絡を取れない。
「違うひとです」
彼はふっと眉を寄せた。
「では誰だ。ローレンツか? 彼も──」
「そうではありません」
どうしてローレンツが出てくるのだろう。
皇宮を訪れた際、会話を交わすことはあったが、個人的に連絡を取り合ってなどいないし、特別な関わり合いはない。
「魔術探偵をしている男性ですわ」
ジークハルトは眉間をさらに皺めた。
「その男と、一体君はどういう関係だ」
「友人です」
「なぜ、その男に会いたい?」
「彼に頼み事をしていたのですわ。舞踏会のあと、私はここにきましたので、連絡がとれておりません。心配をしているはずですので、話をしたいのですわ」
ジークハルトは一蹴する。
「君をここから出せない」
「では彼を皇宮に呼んでいただけないでしょうか」
会いに行けないなら、彼にここに来てもらうしかなかった。
ジークハルトは苛立たしげに、顔を背ける。
「ジークハルト様、お願いします」
「──考えておく」
◇◇◇◇◇
それから少しして、ジークハルトはヴェルナーを皇宮に呼んでくれた。
「君の会いたい男というのは、賭博場の経営者だったのか……」
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