(冷凍されるは頭痛の種)

光へ影が立つように、男は日中現われた。雪原の中で逢瀬は続く。品のない冗談を転がす舌は上唇をなぞり、朝焼け色の目をした男は堕落へと誘った。

『彼女』など諦め、星の運命に焼べてしまえ。男は低く、軽薄に笑う。手放せば楽になろう、と。冗談じゃないと言えば、冗談なものかと声は返った。

そうも執着するのはなぜだ。問いに彼はぐっとつまる。なぜそうも『彼女』に。答えられずに目が泳げば、笑うまま男は彼を物陰へと引っ張り込んだ。

この先あれはどうなるだろうな。聖女の末路は明白だ。血塗れの丘、眠りに閉ざすは厚い雪。目覚めをきたす熱とは血潮。男のもたらす破壊であろう。


命が戻れば奪うのにお前はなぜ聖女を求める。星など惜しくもないだろう。愛しているならなぜ差し出す。悪魔の問答は回る。耳を貸さず目も瞑った。

先に逝った全てを思う。考えたくないと心が叫び、冷たい丘には埃じみた雪が飛ぶ。引き倒され、のし掛られ、詰られ、そして再び日は陰った。日没。

男は立ち上がり、興が冷めた様子で膝を払う。同じ事の繰り返しだ。日毎に退屈を慰めた。星の延命にと無為に興じる。手が離れれば芝居は打ち留め。

赤い日暮れは幕を引く。血は流れずに済み、時間稼ぎは効いている。今のところは、まだ。見透かすような目は物言わぬ夕日を背負う。丘に夜が迫る。


昼夜の境界は男を思わせた。太陽に背を向け、雪を蹴って帰路を辿る。暗がりの中で灯りを目指した。冷えた汗に頭が痛む。『彼女』に会いたかった。

先が見えず退路もない。日が昇れば男はまた現われよう。抵抗に果てはない。どうしたらあの子を守り抜ける。頭を巡る厄介ごとに答えは未だ出ない。

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