『偶然』の出会い①



《経験値を取得しました》


《10000Gを取得しました!》


《亡霊の魂の欠片を取得しました》


《反射スキルのレベルが上がりました》



「お、珍しい……でも流石に経験値も貰えなくなってきたな」



久しぶりの商人の幸運でGが落ちたものの……レベルは変わらず32。

フィールドボスの一番最初の経験値はボーナス?で大量に貰えるんだが、その後は普通のモンスターよりちょっと多いぐらいしか貰えない。

実際、効率が悪いにも程がある。

まあ俺はレベル上げが目的じゃないから良いんだけどさ。



「……にしても、これは何時になったら……」



【亡霊の魂の欠片】


ラロシアアイス・フィールドボスが落とした物。


見た所、何かの武器の一部に見える。

同じ物を幾つか集めたら完成するかもしれない。



インベントリのそのアイテム。

もうその数は十を超えて二十個。


完成するかもしれない……いや、ゲーム的にそうならないとおかしくないか?

それか――もしかしたら、集めるだけじゃダメだったり。

数にしても、百とか要るのなら別だが……明らかにこの塊十個分で大きめの武器は作れるサイズだ。


ただの黒い塊って見た目からして、何か加工がいりそうだし……ん?



「……加工?って事は――もしかして、他の生産職の手がいるのか?」



説明文を鵜呑みにしすぎた自分も悪いが、気付くのが遅すぎた。

一部の生産職が持つ『鑑定』スキルがあればこういった事にも気付けるらしいが、俺は生憎持っていない。


……商人って、いかにも『それ』を持ってそうなんだけど。

あ、もちろん加工なんて事は出来ない。

何かを作り出す事は出来ないのが、この職業だからな……





「……で、どうしようか」



ラロシアアイスのボスフィールドから離れながら、散歩がてら街まで歩く。


加工が出来そうな知り合いなんて、フレンドの中に居ないしな。

……一応、素材を掲示して生産職に依頼が出来る生産掲示板というモノもある。適当に張り出してみようか。


ただ、こんなアイテムだし、依頼するのには結構な金額が要りそうだ――というか受けてくれる人がいるのかどうか。



《――◇◇!◇◇!◇◇!》



「――!」



歩いていると、突然鳴るその警告。

久々に聞いたその音は、一気に俺を緊張状態に持っていった。



「……行くか」



左手に持つ斧を握り込み、俺はシステムが指す方向へ歩いていく。





《??? level28》

《ネフ太 鍛冶師 level25》




「――だ、誰か助けてくれえ!」



大きな声で逃げるネフ太という男と、大剣を構え彼を追うPK職。

名前が隠れ、更に赤文字である事から確実にそれだ。


ただ――その人数は一人。そして俺にも気付いていない。

今まさにこちらへ向かってきているのも、かなり良いタイミングだろう。



「――ッ」



久しぶりの対人戦だった。


目標はおよそ二十メーター先。PK職の首を目標にする。

そして左手を脱力――次に持ち手に力を込め、斧を投擲した。

同時にダッシュしそこへ向かう。



「――ぐっ!!」


「な、何だ!?」



仰け反り倒れるPK職と、驚く彼。


……良かった、成功して。

狙い通り、その刃はPK職の首へと刺さっていた。

走っていた方向と逆からの攻撃により、その威力は増しているはずだ。

実際HPはもう二割程減っている。



「くっ――」



……俺がそこへ着くと同時に、PK職は逃げようと俺の逆方向へと身体を向けていた。

逃がす訳にはいかない!



「――らあ!」



俺は斧を拾い上げ、逃げるPK職に追い打ちで投擲する。

背を向けているおかげで、狙いやすくて助かった。


目標は足、更に言えば爪先。

そして――その十センチ前だ。


この投擲は、ダメージを与える為じゃない。



「……ガっ!!」



思惑通り、俺の斧はPK職の足を抜けて刃が地面に突き刺さる。


そしてそれに足を取られ、盛大に転ぶPK職。

インベントリから斧を装備し――そこへまた、追い打ちをかける。


敗走時に足元を気に掛けられる者は少ない。

……昔の逃げる事しか出来なかった自分が、一番それは知っている。



「『スラッシュ』」


「ぐっ――!!」



成す術もなく食らうPK職。

一応一対二。逃げる敵への追い打ち。

……傍から見れば、それは汚く思えるかもしれない。


でもみすみすコイツを逃して、後ろから叩かれるよりかはマシだ。

勝機は逃さず、徹底的に。





「――おら!!」


「っ、『スラッシュ』!」

「ぐっ!!くそが――」



地面に倒れながらもその大剣を振るうPK職。


見るからにSTRが強そうではあるが――力が入っていない、それも通常攻撃。

対処するのは容易だ。


斧の刃を横にして受け払い、武技をお返しに渡せば――決着がついた。



《投擲スキルのレベルが上がりました》



「……何だかな」



終わった後、感じる違和感。

いくら何でも――逃げるタイミングが早すぎないか?


こっちは二人といっても両方生産職だ。もっといえば、『商人』。

……まあ考えるだけ無駄か。

正直、消化不良――いや、やめておこう。調子に乗りすぎだ。



「お、おーい?はは、助かったよ、ありがとう」


「たまたま歩いてたら察知スキルで気付いたんだ、助けられて良かったよ」


「お、おう……アレって普通、PK職共を避ける為のモノじゃなかったか……?」



彼は終始苦笑いでそう言う。

……言われてみれば、そうだったかもしれない。


でも、こうして一人の生産職を救えたのだから良かっただろう。



「まあいいや……俺はネフ太。あんたと同じ生産職、鍛冶師だ。助けてくれてありがとな――まさか、商人が助けてくれるとは思ってなかったよ」



姿勢を正し、そう名乗る彼は、黒髪でショートヘアーの青年といった見た目だった。

そして『鍛冶師』――想像通り、武器や防具を制作する代表的な生産職。


商人とは違い、何かを作り出す職業。それも欠かせない武器、防具だ。

人気職ではあるものの、需要もその分多くある。



「珍しいな、鍛冶師がこんなところにいるなんて」


「!はは、いや、ちょっと狩りでも――と思ったらアイツに捕まっちまって!」


「それは災難だったな」


「そうなんだよ!ああそうだ!折角だし何か打つよ、助けてくれたお礼に」


「良いのか?材料とか色々多分持ってないぞ?」


「良いって良いって!どうせキルされてたらG落としてただろうしな!」



笑ってそう言うネフ太。

……正直俺の今の状況に、都合が良すぎて身構えてしまう。


まあ――それでもこの機会を逃すのは違う気がするな。

運が良い事が起きて不安になる、日本人の悪い癖だ。



「ありがとう。丁度、生産職に依頼したいモノがあったんだ」

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