パーティー中止命令
でも、ここで押し切られてはまた父親に叱られてしまう。
サラは謝罪の言葉をロイズに述べながら、それでも彼のドタキャンを受け入れる気にはなれなかった。
ロイズはそんな彼女の沈黙を快く思わないらしい。
更に声を荒げて言葉をつづけた。
「謝罪だけなら猫や犬でもできるな、サラ。大体、君には反省も、慈愛というものもない」
「慈愛まで無いなんて、そんな……」
「無いだろう? 私の大事な妹ともいえるべきレイニーに対して、君はいつもいい顔をしないじゃないか」
だってそれは――と、言葉をつなごうとするサラのその言い分をロイズは目で黙らせてしまう。
自分のことは言うくせに、私のことは無視して。
サラの心はますます、冷え込むばかりだ。
「妹様は大事ですが、レイニーは下級生ではないですか。ロイズ、あなたにとってはそんな存在かもだけど」
「だけど、何だ? それで本当に、将来の国母になれるつもりなのか?」
「……」
「黙っていては分からないぞ。言いたいことがあれば言えばいいのだ。それすらもできないとは、なんて君は情けない女性なんだ」
「情けないなんて、酷いっ! ……でも、今夜は――出ていただかなければ困ります。父も殿下にお会いするのを楽しみにしていますから」
「子爵様には君から告げればいいだろう? きちんとフォローしてくれよ、私の婚約者なのだから」
「……」
「まだだんまりか? 一体、婚約者として君はどう考えているのだ? 自分のことを」
――あなたの気まぐれに苛立ちを隠せないそんな女ですよ……。
そう言ってやりたいが、ここは我慢するしかない。
婚約者という立場を振りかざされたら、女である自分には言い返すことができないからだ。
笑顔を作り、はいはい、と何につけても即答しなければロイズは気が済まない。
そういう男なのだ。
サラはまたレイニーを上に見るのですね、そう心で嫌味を言うと、はいと返事をする。
「殿下の婚約者に選んでいただいて、感謝しております。子爵家ともに」
「では私の考えに賛同せず、すぐに文句を並び立てるのが君の考える、良い婚約者か?」
悔しくて唇を噛みたくなる。
せめて、うつむいて返事をすることが許されるならまだ楽なのに。
「いいえ、殿下。そんなことは……ありません。良き伴侶であるべきだといつも考えております」
「ふん。今もそうだが、その行動と結果が結びつかない頭でそう言えるのか?」
「ロイズ? あなた、それは言い過ぎ……」
「だが、事実だろう? なぜ、出来ない?」
「何故も何も、私はいきなりすぎるそのお言葉に困惑しています。今夜なのですよ?」
そんなに頭が悪い女だと罵るなら、お気に入りのレイニーと結婚すればいいのに。
どうして王族が子爵家の娘の自分にこんな話を持ってきたんだろ。
まあ、それは過去の因縁が問題だって理解はしているけど……。
「今夜がどうした? この私が家族同然だと思っているレイニーを優先することの何が悪い?」
「悪いとは申しておりません。時間がもうないと申しております……」
「いいか、サラ。私は王族それも、次期王位継承者だぞ。その私が言ったのだから、そのまま子爵殿に伝えるだけではないか。子供でもできることだ」
「はい……そうでございます、ね……子供にでも、できることです」
ロイズの気まぐれに振り回されて被害を被ったことは、婚約してから二年間の間で二度や三度ではない。
彼のわがままはそのまま、実家にも影響を及ぼしていた。
婚約者の管理もできないとはなんて不出来な娘だ。父親のレンドール子爵にいつも嘆き叱られるばかり。
サラの自分も被害者なのにと意見を押し殺す悲しみは、ある友人以外に相談相手もいない。
孤独に戦うのも……サラには、そろそろ限界だった。
「そうだな、パーティーといっても非公式なものだろう? 学院の生徒と関係者が集まるだけではないか。それくらい、どうにか処理してくれよ、サラ」
「どうにか……?」
「王族が何かの不慮の事態で公的なイベントに出れないことはこれから幾度となくあることだぞ、サラ。勉強するいい機会だろう?」
「それはそうですが、どうにかしたくても、もう出来ないわ」
学べと言っただろうとロイズは呆れたように天を仰いで見せた。
そろそろ、彼の我慢の限界かな……これ以上言えば、また――。
「出来ないとは何故だ、サラ」
「……ロイズ、毎回だけど、あなたが当日のそれも数時間前に言い出すんだもの。当日なんですよ!? お願い、ロイズ。あなたこそ、男性なのだからそろそろ落ち着いてください。父に叱られるのは私なのよ?」
「だからどうした? それも妻になる君の役割だ」
「妻にって……っ!? レイニーは幼馴染だから気にかけて、婚約者の私があなたの問題で父親に叱られるのはよいのですか?!!」
「はあ……いいか、サラ。王太子として命じる」
「またそればかり……」
「いいから言われたとおりにするんだ。まったく使えない上に、氷のような冷たい心の持ち主だな、君は。いいか今夜のパーティーは中止だ。そう子爵殿にお伝えしろ」
「はい……殿下」
立場を利用して命じられたら、サラにはそう答えるしかなかった。
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