雨の切れ間に
瑞樹(小原瑞樹)
鈍色の情景
こんこん、と誰かが窓を叩く音が聞こえた気がして、僕は窓の外に視線をやった。
だがそこには誰もいない。窓には無数の水滴が散らばり、
僕は自宅のリビングからその光景を見ていた。テーブルには食べかけのトーストと、冷めたコーヒーが並んでいる。平日の午後のこの時間は車の騒音もなく、僕は雨の音に耳を澄ませながら、その灰色の世界に身を委ねることが出来た。
この
でも実際に僕の目に映っていたのは、窓ガラスを
6月の下旬。止むことのない
頬を伝う雨粒の冷たさを感じることも、降りしきる雨足の音を聞くこともなく。
僕の名前は
ただ、今現在の状態でいえば、僕は到底社会人とは呼べない。なぜなら僕は、ここ半年ほど引きこもり生活を送っているからだ。
僕がどうして引きこもりになったのか。それは僕の性格に原因があった。僕はかなり敏感な性格で、誰かと話をしていると、その人の眉の動きや声のトーンから感情を察知し(それはおおむね不快な感情だった)、落ち着かない気持ちになることが多々あった。相手の何気ない一言で感情を大きく乱され、発言の真意を考えて夜眠れなくなることもあった。
そんは僕にとって、様々な性格を持った人間が集まる社会に出ることは、
学生時代はまだよかった。クラスの中に何人かは僕と同質の人達がいて、僕は彼らとの関係に居場所を求めることが出来た。人気のない廊下や校舎の裏に集まり、自分達にしかわからない話をする。そんな時間を僕は何よりも愛していた。
だが社会は、僕がそんな風に影の生き方を続けることを許さなかった。
僕の存在は、会社という組織の歯車として組み込まれ、周りと同じように成果を上げることを求められた。同僚が課せられた仕事をすいすいとこなす中、僕は何時間もかけないと仕事を終わらせることが出来なかった。質問しようにも相手の顔色を窺い過ぎてタイミングを逃し、その人が帰る間際になってやっと質問することが多々あった。同僚との間には瞬く間に差がつき、僕は使えない人間として上司から
そんな日々を繰り返す中で、僕の心は
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