第51話
「それで、次はどうしようか?」
レイス達に別れを告げたリツたちは村から離れて森を歩く中、リツがセシリアに質問する。
「えっと、どうしましょうか……。ダークエルフの集落はちょっと遠いのでいつか行ければっていう感じだと思いますが……他の場所となると」
ここでセシリアはチラリとリツのことを見る。
リツにとって懐かしい場所の候補はどこかないかと、視線で伺っているようだ。
「まあ、俺の行きたいところでもいいんだけど……ちょっと気になってる場所はあるかな。ソルレイク関連なんだけど……」
少し考えたリツはそう言いながら箱の中にあった地図を取り出す。
「それは、世界樹の中で見つけたものですね。では、魔王の居場所に向かうのでしょうか?」
現在の魔王の居城の位置に丸がつけられている地図であるため、セシリアはそう問いかけるが、リツは首を横に振った。
「この地図はさ、ぱっと見で魔王の居場所を教えてくれてる。でも、そんなのは少し調べればわかることだよね。もちろん、あの時代にソルが知っていたのは驚くところだけど……でも問題はそこじゃないんだ」
リツは答えながら指を移動させていく。
最初はエルフの里がある森。
少し離れてはいるが、ほぼ現在の位置を示している。
「ここから、こうやって南西に行くと森がある」
「森、ですね」
次にリツが指し示した地図上にある森は別段不思議な場所ではなく、セシリアはリツがなぜここを選んだのか疑問に思って首を傾げている。
「まあまあ、見てて。ここに魔力を流すと……ほら!」
ふっと笑ったリツは森があるあたりに薄っすらと魔力を流していく。
「――あっ!」
その瞬間、淡く地図が光を放ったのをみてセシリアが感動に小さく声を上げる。
そこには薄っすらと白で丸が記されていた。
魔法の天才であるソルレイクが用意した地図だけあり、魔力に反応するという特別仕様になっていたようだ。
「この丸のところも他と同じでぱっと見は森なんだけど、別に特別な名前はついていない。大体こういうところっていうのは珍しい植物もないし、珍しい魔物もいないってのがセオリーなんだよね。しかも特に近くに街があるわけでもなくて――つまるところここにはほとんど人が立ち入らないってわけ」
リツの説明を聞いて、セシリアは怪訝な表情になる。
「そんな珍しくない場所って……すごく珍しいですね」
一見すると何もないからこそ、なぜか丸をしてあることに違和感を覚える。
セシリアのこの答えにリツは笑顔で頷いた。
「そう、珍しくないから人が近づかない……でも、逆にそんなとこってそうそうないと思うんだよ。しかも、ソルがマークをつけているともなれば、わかるだろ?」
「はい! きっとすごいなにかがあると思います!」
ニヤリと笑うリツに、セシリアも笑顔になっている。
「というわけで、俺たちが向かうのはこの森。『ソルレイクの大迷宮』だ!」
「おー! …………あの、その名前は書いてあったのでしょうか?」
勢いよく言われたため、ついついノッて声をあげたセシリアだったが、この場所に迷宮があってその名前がソルレイクの迷宮というのがどこからわかったのかふと気になっていた。
「あー……いや、ね、ほら、ノリで言ってみたんだけど、なにかを隠せる森にわざわざあいつが印をつけたのなら、なにかがあるんじゃないかと思ってさ」
あのソルレイクがわざわざリツのために残した地図にある印が地図上は何もなくても行ってみたらなにかあるだろうというのは想像に難くない。
その結果思いついたのがソルレイクの大迷宮というものであり、それくらいの試練と報酬があるんじゃないかと予想していた。
「なるほどです。……でも、大迷宮となるとちょっと不安になりますね。ダンジョン探索はやったことがないので、ドキドキしてしまいます」
基本的にセシリアは住んでいた町から出たことがほとんどないため、全てが初体験である。
その中でもダンジョン探索は危険が多いと聞いており、足手まといになってしまう可能性があると不安に思っているようだった。
「大丈夫、俺はこう見えても元勇者。いくつもの難関ダンジョンを突破してきた安心と信頼の実績があるよ」
少しおどけた様子で言うリツに、セシリアは一瞬驚いたあとすぐにふにゃりと笑顔になる。
「ふふっ、だったら安心ですね。元勇者のリツさんに頼らせてもらいますね」
冗談で返すくらいにはセシリアからは先ほどまでの緊張した様子はどこかに消えて、肩から力が抜けていた。
「それじゃ、行ってみようか」
「はい!」
セシリアは今度こそ疑問なく元気に返事をして、二人は南西にある森へと向かって行く。
「――とはいえ、あの地図の比率を考えると少し離れているんだよなあ。久しぶりにあいつを呼んでみるか」
「あ……はい! 楽しみです!」
リツが誰を呼び出そうとしているのか予想がついたため、嬉しそうに笑ったセシリアはワクワクしているようだった。
「こい!」
言葉と共に取り出した精霊笛をピーっと音をたてて鳴らす。
これは以前にも精霊を呼び出したものと同じものであり、それを持って呼び出されるのは……。
『呼ばれたよ!』
いずこからか現れたのは、美しい青い翼を持つ風の精霊フェリシア。
リツのことが大好きなフェリシアはいつどこで呼んでも嬉しそうに駆け寄ってくるのが定番だった。
「……あれ? なんか、機嫌がよろしくない?」
だが現れたフェリシアはリツから視線を外して不機嫌そうに腕を組みながらそっぽを向いている。
『だって、だってリツったら全然呼んでくれなかったじゃない! 私、知ってるんだよ、高いところから落下したの何回かあったよね! なんでその時呼んでくれなかったの!?』
リツが呼んでくれるならどんな難題だってかまわないと思っているフェリシアだからこそ、危険な場面に呼ばれなかったことを不満に思っていたようだ。
巨大世界樹から落下した時、世界樹内部から空高くに転送された時――少し思い出してみると確かに何度かそんなシーンがあった。
「あー……それは、その、慌てていたから……さ」
リツは言い訳を口にしながら視線を逸らす。
確かにあの場面でフェリシアを呼べば難なく降り立つことができたのは本当のことである。
「あ、あはは、で、でも、その、フェリシアさんはやっぱりすごく綺麗ですね!」
なんとか機嫌を直してもらおうとセシリアがフォローを入れるが、話が急に変わったため、それは無茶だろうとリツが心の中でツッコミを入れている。
『あら、やっぱり? うんうん、セシリアは見る目があるね! 翼が綺麗だってよく褒められるんだ。この青と同じ翼を持つ鳥はいないし、精霊でも珍しいって言われるんだから!』
しかし、この作戦は大成功で、一気にフェリシアの機嫌はなおった。
さっきまで不満いっぱいだったようだが、おだてられるのは気分が良いらしく、ふふんと胸を張って翼をアピールしていた。
「――は、ははっ、よかった」
風の精霊であるフェリシアがもし怒りに染まってしまったらそこら一帯が吹き飛んでしまう可能性もあったため、機嫌が直ったフェリシアと褒め続けるセシリアを見てリツは内心ホッと胸をなでおろしている。
ずっと呼ばれなかったフェリシアは交流に飢えていたようで、思っていたよりも簡単に落ち着いたことにリツは乾いた笑いを浮かべていた。
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