第30話


「いやあ、豊作だったね」

「ですねえ。綺麗に魔核を回収できたので、きっと高く売れますよ!」

 大量の魔核を回収した二人はホクホク顔で街に戻ってくると、まずは依頼の達成報告をするめに冒険者ギルドへとやってきていた。


 受付カウンターを見ていくと、依頼登録の際に対応してくれた犬獣人の受付嬢がいたため、二人はその受付を選択する。


「あら、いらっしゃいませ。なにか依頼でわからないことでもありましたか?」

 初めての依頼で、しかも魔物討伐を選択した冒険者は疲労全開で戻ってくるが、二人は疲れなどない様子だった。

 そのため、受付嬢はリツたちがまだ街から出ていないものだと判断して優しい笑みを浮かべて声をかける。


「あー、いえ依頼達成できたので報告に来ました。魔物討伐の場合はカードを提出すればいいんですよね?」

「……えっ? あ、は、はい」

 まさかこんなに早く完了報告に来たとは思ってもみなかったため、きょとんとした彼女は内心動揺しながら返事をする。


「それじゃ俺のカードと……」

「私のカードです」

「わ、わかりました」

 二人がそれぞれカードを提出すると、受付嬢はそれを受け取って魔道具にセットしていく。


「…………えっ!?」

 その結果として出てきたのが驚きの声だった。


「しょ、少々お待ちいただいてもよろしいですか?」

「は、はい」

「え、えぇ……」

 何やら二人の結果を見て慌てた受付嬢は、二人の返事を聞くや否や急いでどこかに行ってしまう。

 取り残された二人は何かしてしまったのだろうかと不安になり、顔を見合わせる。


「どうしたんだろ?」

「もしかして、なにかやってしまったのでしょうか……はっ! リツさんって、普通のゴブリン何体倒しました? 上位個体はカウントされなくて、一人あたり十体倒さないと行けなかったのかもしれないですよ!」

 焦った様子のセシリアにそう言われて、リツは自分が倒したノーマルゴブリンの数を思い出していく。


「――って、いやいや、最初のほうは俺のほうがセシリアより多く倒してただろ?」

 改めて考えても、ノーマルゴブリンですらリツのほうが多く倒していたはずだった。

 足りないというのは考えられないと首を振る。


「そ、そうでした。自分なりにはかなりの数を倒したのと、受付嬢さんの反応に取り乱してしまいました……ごめんなさい」

 自分の成果を大きく考えて、圧倒的なリツのことを確認してしまったことを恥ずかしく思って、セシリアはうつむきながら謝罪する。


「いやいや、それくらい気にしなくていいって。俺のほうもちょっと強い言い方になってたかもしれないからごめん」

「いえいえ、私のほうこそ……」

「いや、俺が……」

「「……ぷっ」」

 二人が互いに自分が悪いと言いあうが、ふと目と目が合った瞬間ふきだしてしまう。


「ははっ、まあしばらく一緒に行動するわけだから、これくらいは気にしないことにしようか」

 笑みをこぼしながら、リツはそう提案する。

 徐々に心を許してくれてはいるものの、まだセシリアには距離があるため、少しでも気楽にいってほしかった。


「ふふっ、そうですね」

 そう言ってくれたことで、セシリアの気持ちも少し軽くなって笑顔になっていた。


「おまたせしました……!」

 そんなやりとりをしていると、受付嬢を息を切らして戻ってくる。


 彼女の呼吸が整うのをリツたちはしばし待つことにする。


「ふう……も、申し訳ありません。お二人にギルドマスターから話があるとのことなので、上に来ていただけますか?」


 受付嬢からのこの誘いにリツたちは戸惑いながら顔を見合わせる。

 ただ魔物を倒してきただけなのに、わざわざギルドマスターが呼びつけるということに二人は身構えてしまう。


 セシリアは街から逃げて来た貴族であり、リツはその逃亡をほう助した存在である。

 そんな二人に追っ手がかかっていても不思議ではない。


「結構です」

「失礼します」

 焦りをにじませた二人の口からはとっさに断りの言葉が出て、そろって踵を返し、ギルドの入口へと早足で向かってしまった。


「………………えっ?」

 これまでのまさかの反応に受付嬢はしばし固まってから驚きの声を出していた。

 その頃には既に二人の姿はギルド内にはなかった。


「あー……えええええっ!?」

 徐々に二人が逃げたことを理解した受付嬢は驚きの声をあげて、その声はギルド中に響き渡ることとなる。






 ギルドが見えなくなるくらいまで急いで移動したところで、二人は移動速度を落としていく。


「……まさかギルマスから呼び出されるとは思わなかったな」

「で、ですね。街から話が来ていたのでしょうか?」

「かもしれないな」

 足を止めることなく街を出ようと歩く二人は、追っ手の可能性を考えており、早くここから逃げないとと考えていた。

 戦えばリツが圧倒するのはわかりきったことだが、この街で指名手配になるのは避けたかった。


「せっかく作ったカードも置いてきちゃったし、どうしたものかな……」

「武器は買えましたから、もう出ますか?」

 このままここにいてはまずいかも、とセシリアが出発を提案する。

 カードは最悪紛失したら再発行すればよいと割り切っている。


「うーん、せっかくいい拠点になると思ったんだけどなあ……」

 飯も美味い、宿もいい。それなのに出発しなくてはならない状況なのはあまり好ましくなかった。


「待ってください!」

 そんなことを話していると、ギルドの方向から急いだ様子で誰かが走ってくる。


「なんだ?」

「な、なんだか、ものすごい大きな声と煙が……」

 先ほど逃げてきた方からやってくるその砂煙はリツたちの横を通り過ぎて急ブレーキをかける。


「はあ、はあ、はあ、間に合って、よかった、です……」

 その正体はエルフの男性が起こしたもののようで、息を切らしながらもリツとセシリアのことを視線で捉えている。


「お前は、誰だ!」

 剣は抜いていないものの、リツは いつでも戦闘できるようにセシリアを守って身構える。

 顔をこわばらせたセシリアは無言のまま彼の後ろに隠れている。


 街では何事かとなっているが、追いかけてきたエルフの男性を知っているのか、遠巻きに見守っている。


「わ、私は、冒険者ギルドのギルドマスターで……」

 その言葉は、リツたちの態度を更に硬化させる。

 いざとなればリツはすぐにでもありとあらゆる手段をもって逃げ出す心づもりがあったため、より警戒心を強めた。


「ちょ、ちょっと待って下さい! お二人はなにか勘違いをしているようです。私があなたがたを引き留めたのは、あなた方を捕まえようとするわけではないのです、どうか私の話を聞いてもらえませんか!?」

 リツたちの警戒心を感じ取ったギルドマスターは慌てたように引き留める。

 あまりにも必死な彼の言葉に、リツたちは再び顔を見合わせていた。


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