第一章 美少女降臨
第一話 美少女降臨
「また同じクラスになれたな。外部生も一緒のクラスとなるのか」
透は歩いている同じ学校の生徒たちを見ながら何となく言った。
「みたいだな。俺らはいいけど外部生はせいぜいクラスの三分の一程度なんだろ?」
一緒に歩いている透の中学時代からの親友、
透たちが今日から通う高校は小中学校の併設されている私立の進学校で、透たちはみんな中学校からの内部進学生だった。
ただ、進学校とはいえ透の成績はあまり振るわず、落ちこぼれとまでは言わないまでも低空飛行を続けていた。
「外部生の子は少し緊張しているかもね」
透の隣にいる女の子――
葵は三人の中で唯一この学校の初等部から通っていて透の近所に住んでいた。幼馴染みというわけではないが、透は何度か葵を見かけたことがあったので、中学校に入学してからは何となく仲良くなった。
小学校のころから眼鏡をかけていて特に目立つタイプではなく、少し引っ込み思案な大人しい性格で、自分の容姿にあまり自信のない女の子だった。成績は上位だったので、試験前には透や健一に頼まれて勉強を教えることもあった。
「さてと……新しい我が校舎へと向かいますか」
透たちは新入生たちでにぎわう校門を通り抜けて高校の校舎に向かった。
◇ ◇ ◇
教室に入ると黒板に名前と席が割り振られていた。出席番号順になっており、机の上の札にもフルネームで名前が記載されている。
透が自分の席に着いてカバンを置くと、思わず視線を奪われそうになるような女の子が入ってきた。
(なんだ、このテンプレのように完成された美少女は――)
整った顔立ちに綺麗な黒髪ロング――見覚えが無いので外部生であることには間違いなかった。
(――と、まずい)
一瞬その女の子が自分を見たので透はあわてて視線をそらした。その女の子は自分より二つ後ろの席に着いていた。
(名前は……)
黒板で名前をサーチすると「葛城院彩香」と書かれていた。
(『かつらぎいんあやか』、かな? けど、『くさなぎ』の俺より後ろの席に座っているな……)
透は席を立って健一の席の方に行き、小声でささやくように言った。
「おい、見たか?」
「何をだよ」
「あの子――俺の二つ後ろの席の」
健一が何となく見ると、
「外部生か?」
「ああ。めちゃくちゃ美人」
「マジ?」
「いま正面から見たんだけど、ものすごく可愛かった」
「マジかよ」
健一は思わず席を立った。そして何となく前の方から透の席の方に移動して彼女をチラリと確認してみる。
「……」
お互いに同意するかのように頷き合った。ただ、どう考えてもクラスを超えて男子たちに人気が出るだろうと思った。
◇ ◇ ◇
(ああ……ホントあんなに完成された子、初めて見たよなあ)
透は入学式の間、ずっと彩香のことを考えていた。ほとんど一目惚れだった。中学の時からももちろんそれなりに可愛い子はいたが、彼女の容姿は抜きんでていた。まだ性格も何も知らないのに透は勝手に盛り上がっていた。
「新入生代表、
思わず「えっ?」と顔を上げると彩香が登壇し、新入生代表挨拶を始めた。
透だけでなく周りも少しざわつき、「あの子、入試一番の子?」と噂を始めた。
(マジかよ――っていうか、『さいじょういん』なのか。頭もいいとか、テンプレほぼ達成じゃねえか)
入学式が終わって教室に戻ると、早速彩香に話しかける女子などがいた。
続いて教室では自己紹介が始まった。
「えーと、A組出身の草薙透です。陸上部入ってます」
簡単な自己紹介だった。クラスの半数以上が内部進学生だったし、だいたいこんなものだろうと思った。
それより関心はやはり彩香だった。やがて彼女の番になるとさっきの入学式の新入生代表挨拶のときと同じように、透き通った声で自己紹介を始めた。
「
(顔、声、成績ランクトリプルS!)
透は心の中でバシッと評価を下した。どう見ても性格もお淑やかでよさそうだ。
やがて葵の番となった。
「え……えと、去年はA組でした。今年から陸上部のマネージャーやってます……よろしくお願いします」
葵はおどおどしながら小声で手短に済ませた。
(うーん、葵には申し訳ないが、これが〝差〟ってやつか……葛城院さんはほぼ葵の上位互換だな)
透はしみじみとそんなことを思っていた。
◇ ◇ ◇
入学初日はさすがに男子は様子を
(間違いなくスクールカーストの頂点に立つだろう。ハードルが高すぎる。何をどうやったらあんな最高な女の子と付き合えるのだろう)
色々思いを巡らせていたが、健一は透よりももっと現実的だった。
「お前はすでに重要なことを見落としているッ!」
高校初日の帰り、健一はビシッと透を指して言った。
「何故まず初めに彼氏がいる可能性を考えない?」
「はっ――そ、そうだ。あんなに可愛い子なのに彼氏がいないわけがない!」
健一に指摘され、透は思わず膝に両手をついて言った。
「なんてことだ……始まる前に終わってしまうだなんて……。こんな……こんな理不尽な世の中があっていいのか?」
「……いや、これが現実なのさ、相棒」
健一は慰めるように首を振りながら透の肩に手を置いた。
「二人とも……よっぽど葛城院さんのことが気になるんだね」
葵は苦笑いをしながら言った。すると透はパッと顔を上げて、
「そうだ! 葵、葛城院さんに彼氏がいるか訊いてきてくれよ!」
「ええっ、わ、私には無理だよ――」
葵は驚いてブンブンと首を振った。すると健一が再び透の肩に手を置いて言った。
「透、現実はこうだ」
「え?」
健一は妙な独り芝居を始めた。
「『ねえ……葛城院さんって彼氏とかいるの?』『うん……中学の時の先輩で、彼がこの学校に通っているの』『そうなんだ。羨ましいわ』」
「うわあああ! やめてくれー!」
透は両手で耳を防ぐようなポーズをしながら言った。
「これが、現実ってやつだ」
「ぐっ……!」
透は唇を噛みしめた。
「一万歩譲って彼氏がいる可能性があることは認めよう――けど、俺にとってたまらないのはその彼氏が葛城院さんとどこまで進んでいるのか、そしてそれを許されているかと思うと……」
「なんか矛盾してるけど……」
葵はまた苦笑いをして言った。
「こういうのは、早々に諦めた方が楽なんだよ。そもそも存在がありえないじゃないか。あれだけルックスが良くて、しかも新入生代表。つまり、特待生なんだろ? あの子」
「現実って、厳しいんだな」
せっかくの高校生活のスタートなのに、透は勝手に出鼻をくじかれていた。
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