あれから数日……私は久々に楽しい気分に包まれていました。

　クリス様という隣国からこられた行商の方は珍しい花の種やアンティークの小物などを扱っておられてとても素敵なオルゴールを見せて頂いたのです。

「とても素敵なオルゴールですね」

　そのオルゴールはネジを回すとパカッと蓋が開き、メロディーに合わせていくつもの小さな薔薇の花が踊るように動くのです。どうやらこのメロディーも異国のもので、薔薇をモチーフにした歌のメロディーなのだとか。

　そういえばロゼリアは薔薇の花が大好きでしたわ。

「このオルゴールを是非、売って頂きたいですわ。私の義妹が喜ぶと思いますの」

「いもうとさん、ですか？」

「はい。今は離れて暮らしているのですが、その子は薔薇が大好きでとても心の優しい私の自慢の義妹なのですわ」

　ロゼリアが喜ぶ姿を思い浮かべていると、クリス様はなんだか柔らかい笑みを浮かべてます。

「テイレシア様は、その義妹さんがとてもお好きなんですね」

「はい！それはもう！」

　私が思わずロゼリアの可愛いところを語り出すと、クリス様はにこにこしながらずっと聞いてくださいました。

　こんなに楽しく誰かと会話するのは久しぶりです。もちろんお父様やお義母様とはロゼリアの可愛さについて語り合ったりしますけれど、フレデリック殿下なんかは私の話などまともに聞いてくれませんでしたしね。ロゼリアの話をしていても必ず「ロゼリアはそんなに可愛いのに、お前にはそんなものは欠片もないな」などと言われていましたから。わざわざ比べられなくても、私よりロゼリアの方が可愛いのは当たり前の事ですわ。フレデリック殿下はせっかく楽しくロゼリアの話をしていたのにすぐに話の腰を折るつまらない男なんですもの。だんだんお話しをするのも嫌になっていましたから。

　そんなこともあって、私とクリス様はお友達になりました。しばらくこの街で商売をなさるそうなので宿屋と街の商人のまとめ役の方を紹介しましたわ。

街でも私が婚約破棄された噂は皆さん知ってますが、それについて私を責める方はおらず、逆に心配までして頂きました。なんだか心が温まりましたわ。これもこうやって街に足を運べるようになったからです。クリス様には感謝しかありません。

あぁそれと、私からの紹介と言ってもまとめ役の方はとても厳しい方なので話を聞いてくださるだけです。贔屓は決してなさりません。ここできちんと商売できるかどうかはクリス様次第なのです。応援はしますけどね。

　翌日、クリス様は無事に商売をする許可をもらえたと報告に来てくださいました。なんでもクリス様の扱ってらっしゃる品物はとても珍しく価値があるそうなのです。売上金の何割かを渡すことで売り場も借りれたそうです。

　それからクリス様は午前中にお仕事をなさり、午後は私を散歩に誘いにくるようになりました。

最初は戸惑いましたが家族も私が外へ足を運ぶのは良いことだと後押しして下さり散歩にいくようになりました。もちろん侍女も一緒に散歩してくれます。

　そしてある日、とんでもない事を聞いてしまったのです。

　なんとフレデリック殿下は実は男色家で、とある男性を愛人にするためにロゼリアを利用したと言うのです。

　なんでもその男性はロゼリアの親しい方だったそうなのですが、男色家であることを隠しながら事を進めるためには私が邪魔だったから適当な罪で断罪したのだとか。

　そして自分の欲望のために嫌がるロゼリアを無理矢理連れていき酷い目に合わせ、ロゼリアにその男性を呼び出させたのだそうなのです。

　なんということでしょう。まさかの暴露本が出回っていたなんて……。

　侍女がすぐさま手に入れてくれたその本には、名前は変えてありますがあきらかにフレデリック殿下だとわかる人物が自分の性癖を隠すために隠れ蓑として女性を侍らせ、その影で純真無垢な少年とあれやこれやをなさる話が書いてありました。

　……あら？こちらにはまたもやフレデリック殿下そのままな人物がかなり爵位の低い男性に言い寄り無理矢理組敷こうとしたら逆に組敷かれてしまった話がありますわ。

　その他、いかにもフレデリック殿下らしき人物がありとあらゆる年齢・職業・爵位または平民の少年から妙齢の方まで幅広くお付き合いなさってて様々なシチュエーションのお話の暴露本が出回っているのです。

　なんてことなのでしょうか……！この暴露本はどこまでが真実なのかはわかりませんが、あの殿下の態度を思い出せば真っ向から否定は出来ません。――――いえ、あり得る！だって自分は女性にモテると公言されている割にはそこまで深くお付き合いされていたご令嬢はいなかったはずですし、どちらかと言うと男友達と遊んでいる方が多かったです。今回の婚約破棄もお友達関連から言われた事が始まりでしたし……なるほど、やはり本命を手に入れるために私とロゼリアを利用したのですね！謎は全て解けました！

なんてことでしょう、それでは本命の男性を手に入れたフレデリック殿下が利用価値の無くなったロゼリアをどうするかわからないじゃないですか！ロゼリアの身が心配です！