Arthur6 行方不明事件
帰りのホームルームを終えたレインは、カバンを持って、所属している剣道部の訓練場に入った。そこはテニスコート二個分の広さがある。部員二十人の生徒が素振りや実践練習をしていた。
「レイン君。お疲れ様」
「お疲れ様です。今日もよろしくお願いします」
右手を上げながら挨拶する上級生に言葉を返すと、着替え室に入る。
ロッカーを開け、制服を脱ぐと美麗な肉体があらわになる。バックからボディシートを取り出し、上半身を拭いた。荷物をロッカーに入れ、防具を着込んで竹刀を取り、着替え室から出た。
「今回も手合わせをお願いします」
「あぁ、手加減はしないからな」
上級生と対峙する形で竹刀を構える。
「申し訳ありません。遅れました」
現れたのは、カリーヌ、ジュード、エリーだった。彼女らもレインと同じく剣道部のメンバーだ。上級生は、遅れてきた彼女らを温もりのある口調で許した。
実戦方式の練習が始まった。レインは相手の動きを見て攻撃を仕掛ける。しかし、読まれていたのか、上級生から小手を打たれた。衝撃で竹刀を落としてしまう。
「剣の動きは良いが、まだ気持ちが出ている。剣道というのは勝ちたいという欲が出れば、相手に隙を与える。無心で境地に達しなければ、いくら君でも相手に打ち勝つのは無理だよ。ほら、再開だ」
「はい、分かりました」
◇◇◇
「さすが、先輩方は強い。経験を積んでいる」
「あたしたち、まだまだ未熟だけど頑張っていこうね。レイン」
「疲れましたよ。今日も」
「あー! もう、くたくた!」
部活が終わり、制服に着替えたレインはカリーヌ達と校舎の入口付近にいた。
(まだ、夜になってないけど。夕方の空は綺麗だな)
一息つきながら
「さて、寮に帰るか」
レイン達が移動魔術を発動しようとした時、
「ちょっと、待ってください」
後ろから誰かに声を掛けられた。振り返ると、中肉中背で茶髪に黒い瞳をした男子生徒の姿が目に入る。
「なにか用かい?」
「私、四大騎士家の皆様が見えたので、挨拶且つ会話でもしようかなと。駄目ですか?」
「構わない。だよな、カリーヌ」
「うん、問題無いわ」
「ありがとうございます。申し遅れました。私は森本太郎と申します」
森本は、印象のいい自己紹介をした。
「森本君か、よろしく。すでに知っているだろうけれども、僕はレイン・アルフォード、赤髪の彼女がカリーヌ・マルース、緑髪の彼がジュード・ルイン、黄のハーフアップの彼女がエリー・キャロル」
「カリーヌよ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「森本君、よろしくぅ!」
「ところで、制服のバッチを見るかぎり、
「はい。私は、取り柄のない人間ですから」
「そんなことはないわ。あたしらになくて、君にはある才能だってあるわ。全知全能なんていないから。消えたほうがいい人なんていないわ」
「ありがとうございます。カリーヌ様の言葉に自信がつきました」
「嬉しいわ」
「本当は、自分らが全知全能だと思っているくせに」
「なにか言ったかい?」
「いえいえ、なにも。……あぁ!」
突然、森本は目を大きく開いた。
「どうしたんだい?」
「カリーヌ様の『消えた』で思い出したのですが、昨月から今月ぐらいにかけて新入生四人の生徒が行方不明になっている話は、知っていますか?」
「いや、僕達は知らないが」
「はい。最近、四人目の行方不明者が出たみたいで。噂では人身売買されたじゃないかと。教師の様子は、どうですか?」
「別に、これといった様子はないわ」
カリーヌの言葉に、森本は案の定だと思ったのか、ため息を吐いた。
「やはり、そうでしたか。きっと、学園長が教育の障害になると考えて、貴方達や
「情報規制なんて出来るのかな?」
「それぐらいは、可能だと思います。学園の長の権限を使えば、生徒に指示する力もありますから。理由としても余計な事で成長の邪魔になるからだと思います」
(人の命が懸かっているのに、学園のトップに立つ人ではないな)
「確かに、やりそうだね。本当、あの男はダーリンに重要な情報を与えないなんて、最低だよ!」
エリーは、頬を膨らませながら怒った。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「それでは、失礼させていただきます。もう十分に話せましたので満足です。その事件は騎士庁に任せたらいいので」
「そうだな。じゃ、またな」
「イジメられたり、話をしたいならあたしらのもとに来るのよ」
「ありがとうございます。では、また明日」
レイン達は、頭を下げる森本に別れの挨拶をしながら、移動魔術で寮へと帰った。
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