第25話 順調
その後も村の中を視察したが、総勢十五体派遣しているスケルトンたちが問題なく受け入れてもらっているということを確認した。
ランディ村長が『スケ坊』と呼んでいたように、他の村人もスケルトンそれぞれに名前をつけているらしい。中には、亡くなった子供の名前をそのままスケルトンにつけている村人もいた。
彼らに共通しているのが、「最初は恐ろしかったが、今はなんだか可愛く見えてきた」である。俺は別に慣れただけで可愛くは思えないのだが、自分の指示で黙々と働いている姿を見ていると、なんだか愛着が沸いてくるのだとか。
しっかり受け入れられていることはありがたく、今後の領地の未来が明るいことは嬉しい。
「それでは、一晩世話になった」
「はい、ご領主さま。是非またいらしてください」
「ああ。もしもスケルトンの状態に不備などがあったら、また教えてくれ」
「はい。承知いたしました」
「ご領主さま、ありがとうございます!」
「ご領主さま、万歳!」
丁寧にそう頭を下げるランディ村長と、他の村民たちも集まって俺を送り出してくれる。別段見送りは必要ないと言ったのだが、村民たちが俺に感謝の意を伝えたいということだったのだ。
ここまで丁寧にされると、なんだか俺もむず痒くなってくるのだが。
クリスを横に乗せて、スケルトンホースの手綱を掴んで、バースの村を出発する。次の目的地であるセッキの村、ヒヤンの村はさほど離れていないため、今日中に二つの村を回ることができるだろう。
ちなみに既にスケルトンを派遣している村の場合、荷台にスケルトンだけ載せて、スケルトンのうち一体に手紙なり持たせて、スケルトンホースにその村まで向かってもらう形をとっている。俺が不在でも、領主の印のついた馬車でスケルトンホースが引いているとなれば、俺から追加のスケルトンが来たと分かるからだ。
だが、今回赴く村は違う。現状は全くスケルトンがいない村であるため、俺が直々に向かって説明する必要があるのだ。
「かぜ、きもちいい」
「そうだな。いい日和だ」
「おうまさん、がんばってる」
「スケルトンホースも、もう数体くらいは作った方がいいかねぇ」
馬車を引くスケルトンホースを見て、小さく嘆息。
さすがに、まだ二匹しかいないのは問題かもしれない。大体の移動には彼らを使っているし、全身が砂まみれだ。骨の体だから疲労はしないのかもしれないが、連日酷使していると骨にも異常を来すかもしれない。
さすがに、壊れたから次のスケルトンホース、みたいな使い方はしたくない。そのためにも、何らかのケアが必要になるだろう。
「でも、よかった」
「ん? 何が?」
「ほね、むらのともだち」
「ああ……」
クリスの言葉に、頷く。
バースの村でのスケルトンの扱いは、まるで生きている人間を相手にしているかのようだった。ちゃんと服を着せて、名前をつけて、村の一員であると認めていたのだ。
俺はただ、労働力として使えるようにと思って提供したのだけれど。それがまさか、こんな風に受け入れられるとは思わなかった。
こんな風に、全ての村でスケルトンが受け入れてもらえるといいのだが。
「他の村にも、一度行かなきゃいけないかもな。カフケフの村もダカオの村も、バースの村と同じようにスケルトンを扱っているとは限らないからな」
「だいじょうぶ」
「……何でそう言えるんだよ、クリス」
「だいじょうぶ。ほね、かわいい」
「……可愛いか?」
俺にしてみれば、ただの骸骨なんだけど。
そして、骸骨を見て可愛いと思うほど俺の性癖は歪んでいない。同じアンデッドであるクリスには、スケルトンが別の形に見えているのだろうか。
考えてみたけれど、多分そういうわけじゃなくて、ただ純粋にクリスが変わり者なのだろう。
あとはバースの村の村民みたいに、黙々と働く姿に愛着を沸かせてくれるか。
「おっと、見えてきたな」
「むら」
「ああ。地図で見る限り、あそこがセッキの村だ」
「はい」
他の農村と同じように、長閑な印象の村である。
だがやはり、他の村――最初に見たときのバースの村と同じく、荒れた畑が多い。やはりこの村でも、労働力は不足しているのだろう。
そんな村の入り口近くにいた、比較的若い男と俺の目が合う。
「ひっ――!」
まぁ、そういう反応だよな。やはりスケルトンホースは、初めて訪れた村では驚かれるらしい。
だが今までの村と違うのは、そこから混乱に陥るわけでもなく、恐れながらも俺の来訪を待っていることだろうか。今までの村は、スケルトンホースの姿を見た瞬間に逃げ出してしまったというのに。
ようやく村の入り口まで辿り着いて、スケルトンホースの手綱を引く。
「ようこそ、ようこそお越しくださいました!」
「あー……ここが、セッキの村でいいのか?」
「はいっ! ご領主さま! お待ちしておりました!」
「む……」
名乗ってもいないのに、そう返されて困惑する。
確かに馬車には、領主の印を掲げているけれども。だけれど、一般の領民は俺の領主の印など知らないと思うのだが。
まぁ、いいか。俺は目的を達成するだけである。
「この村に、ケンという名前の男は……」
「はい、私です!」
「ああ、きみだったのか」
ウルージから渡された目録にあった名前の一つ――セッキの村のケン。
スケルトンを是非派遣してほしいと嘆願してきた一人だ。どうやら、俺がスケルトンを派遣していることを知っていたから、スケルトンホースを相手にしても落ち着いていたらしい。確かに、骨の馬に乗ってやってくるとか俺くらいだろうし。
「色々、話を聞きたい。入らせてもらう」
「はい! ただいま、村長を呼んでまいります!」
「ああ」
そう言って踵を返し、村の中へと入っていくケン。
まぁ、向こうからスケルトンを派遣してほしいと言われたのだ。このまま問題なく順調に話は進んでくれるだろう。
暫く待ち、ケンが老齢ながらも体格の良い男を連れてくる。
「村長、ご領主さまです!」
「おお……これはこれは、領民議会以来でございますな、ご領主さま」
「ああ、久しいな」
正直、顔なんて全く覚えていないけれどそう言っておく。
何故かクリスが、じとっとした目で俺を見ていた。こいつ、嘘とか分かるのだろうか。
「改めまして、この村の村長を務めておりますパッチと申します」
「ああ。改めて、領主のジン・フリートベルクだ」
「はい。それで今回は……」
「そちらの男、ケンから嘆願があってな。セッキの村にも、スケルトンを派遣してほしいと」
「ありがとうございます。村の総意でございます」
やっぱり話が早い。
パッチ村長が、頬を綻ばせながら頷いた。
「バースの村のランディ村長から、お話を聞いておりました。スケルトンは不眠不休で働いてくれる、素晴らしい労働力になってくれるとか」
「是非、うちの村にも!」
「ああ。そう思って、馬車に乗せている」
荷台の幌を開いて、中から出てくるのは五体のスケルトンと四匹の牛スケルトンである。
とりあえず総員の半分、この村に派遣すればいいだろう。まずは試しに、という形だ。
やはり先に話を聞いていたからか、スケルトンを見ても恐れる様子はない。
「もしも今後、スケルトンが肌に合わないだとか一緒に仕事をしたくないとか、そんな意見が出てくるようならば報告してくれ。その場合、スケルトンは回収させてもらう」
「はい。我々の方で、そのような意見が出ないよう尽力いたします」
「まぁ、それでも生理的に受け付けないという者はいるかもしれない。だが、問題がないようであればもう十体ほどは派遣しよう。さらに追加が必要ならば、また言ってくれ」
「承知いたしました。ありがとうございます」
パッチ村長が、丁重にそう頭を下げる。
なんだか順調すぎて怖いが、これもバースの村やカフケフの村など、成功例の話を聞いているからだろう。
この調子で、他の村でも全て、スケルトンが受け入れてもらえるといいのだが。
ちなみに。
次に向かったヒヤンの村でも、特に問題なくスケルトンは受け入れられた。これで休耕地が減ります、と喜ばれて。
改革は、順調に進んでいる。俺はこの貧乏領地を、スケルトンによって盛り上げてゆくのだ。
俺は、領主であるのだから――。
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