第151話 弁償回避成功
シスは冒険者ギルドで依頼板を見上げていた。
王都の用は済みそのままヒールハイに直接戻るかと思われたが、何故かトクメは王都から一番近い街に全員を移動させた。
「ここに来る意味はあるのか? 何の用もないだろう」
「何を勘違いしている。これは私が決めた旅行であり行き先を決める権利が私にはある。この街は本来なら王都の前に寄るつもりだったがゼビウスが飛ばしたから今訪れているだけだ。この件についてはただついてきているだけのお前に決定権は勿論、意見を述べる権利もない」
わざとイラつかせる言い方にヴィルモントは案の定無言で睨みつけ、トクメは予想通りの反応だったのか満足そうな余裕の笑みを浮かべている。
「ゼビウス……」
「アレはただ揶揄って遊んでいるだけだから大丈夫だよ。まあ、他の目的もありそうだけど……」
「妾はヴィルモントと世界をまわる時間が長くなる故どれほど長引こうと構わんぞえ」
「…………」
ダルマは普通に喜んでいるがムメイは何処か疑っているような呆れたような、懐疑的な目でトクメを見ていた。
その後ゼビウスはトクメとまた何処かへと出かけてしまい、やる事もなくとりあえず依頼を受ける事にしたシスは冒険者ギルドを訪れ今に至る。
「……。……っ!」
依頼板を眺めてはいるが、特にこれといったものがなくただ何もせず立っている状態のシスだったが、不意に何かの気配を感じ横にそれるとほぼ同時に板に矢が刺さった。
「……」
振り返ると二人の冒険者がそれぞれ剣と弓を構え、シスに狙いを定めている。
完全にこちらを敵視しているこの状況にシスは前と同じような事かと判断すると、ギルドカードを取り出し相手に見せるように前へ出した。
「俺はオルトロスだが冒険者だ。ギルドからも認められてこうしてちゃんとギルドカードも渡されている。これ以上攻撃するのなら規律違反になるぞ」
「そうか。だが俺達も依頼の為にやってんだ、オルトロス討伐のなっ!」
そう言って剣を持った冒険者がオルトロス討伐の依頼書をシスに見せるとそのまま切り掛かってきた。
その攻撃を避け、代わりに後ろにあった依頼板が真っ二つに斬られると流石に周りも騒ぎ出したが男は気にする事なくシスへの攻撃を続ける。
「こんな所でオルトロスを見つけるとは運がいいぜっ! わざわざ探す必要もないし、しかも一匹だけ。これほど楽な依頼もそうないぜ!」
絶え間なく繰り出される剣と矢の攻撃にシスは反撃せず、ひたすら避ける事に専念していた。
応戦してギルド内の物を壊し弁償事になるのを避けているのだが、このままでは自分まで弁償しなければいけなくなりそうな程テーブルなどが壊されている。
とにかくこれ以上物を破壊されないよう札を取り出したが、それを使う前に男達の動きが止まった。
「……?」
よく見れば男達の手足は水で出来た輪っかに捕われ床と繋がれている。
「また喧嘩が起きたのかと思えば……これはどういう事?」
現れたのは二十代程の女性で、見るからに魔術に精通していそうなローブを着ているがその中は割と露出が多めで体のラインを強調した服装をしている。
「ギルド長……! 俺達は依頼のオルトロス討伐の最中なだけで、決して違反しているわけでは……!」
剣を持っている男はギルド長と呼んだ女性に必死な様子でそう訴え、弓の男も頷きながら何とか動かせた指だけで依頼書を見せた。
「ふーん、オルトロスの討伐ね。貴方、この依頼内容をちゃんと確認したの?」
「え……?」
「この依頼は村の近くに住み着いたオルトロスの群れを追い払ってほしいってあるでしょう。オルトロスなら何でもいいわけじゃない」
「そ、それは……」
あからさまかに狼狽えだした男達はただ『オルトロスの討伐』だけしか見ていなかったのは明らかであり、シスだけでなくギルド長や周りにいた冒険者達からも呆れているようなため息が聞こえた。
「もういいわ、この依頼を貴方達に任せる事は出来ない。ミーシャ、この人達を奥に連れて行って。処罰はそこで決めるわ」
「はい!」
側にいた少女に告げると同時に水の拘束は外され、男達は暴れる事なく大人しく奥の部屋へと連れて行かれた。
「さて、と」
「っ!」
ギルド長は軽く周りを確認するように見回してからシスの方へと視線を向けた。
「い、幾らだ?」
「え?」
「その、俺はここにある物は壊していないが……修理代とかを払わないといけないだろ?」
どうしようもない事だがせめて言われる前にとシスが言うと、ギルド長は一瞬呆気に取られたようにポカンとすると口に手をあて上品に笑った。
「ああ、そんな必要はないわよ。貴方はただ巻き込まれただけみたいだし、今回の被害額は全てさっきの冒険者達に払わせるわ。ただ貴方はオルトロスなのでしょう? ならこの依頼は貴方にピッタリだと思うのよ」
そう言ってギルド長がシスに見せたのは先程男が受けたと言っていた依頼書。
「さっきも言ったけどこれは近くの村にオルトロスが住み着いてしまって家畜が襲われたりしていてね、同じオルトロスなら説得できるんじゃないかと思うのだけど……どう、引き受けてくれないかしら。勿論説得じゃなくて討伐でもいいのよ」
「オルトロス……」
正直シスは同族とは群れを追い出されて以降まともに会った事はない。
上手く説得できるのか、そもそも会話ができるのか不安しかないが、ゼビウスに会話の練習はした方がいいと言われているのを思い出し、丁度いいとそのまま依頼を引き受ける事にした。
「ありがとう。本当はこういうのはいけないのだけど……依頼が無事に終わったら特別なお礼もするわ、楽しみにしてね」
「? ああ、分かった」
ギルド長はシスの肩に手を置きウインクしたが、よく分かっていないシスは素直に頷くと早速オルトロスが住み着いて困っている村へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます