第139話 世界最古の怪物の共通点

「王様! どうか話を! 話を聞いてください!」


 男は取り押さえようとした騎士を振り切り、陛下の前へ転ぶように膝をつき悲痛な声で訴えた。


「陛下は今別件で取り込み中だ。話なら私が聞こう」


 鎧の男は男に寄ると落ち着かせるように肩を優しく撫で、別室へ案内しようとしたのを王が止めた。


「アルバート、よい。ヴィルモント、そなたの話は理解した。詳細をこちらで調べる必要がある故今はこちらを優先させてもらう」

「はい、私は構いません」

「うむ。それで、何があった?」

「あ、ありがとうございます!」


 男は膝をつき頭を下げたまま話し出した。


 男が言うにはオークの群れが村に現れ襲ってきたらしい。


「オークは三匹でしたが戦いを知らない私達では簡単に打ち負かされ食糧を全て奪われてしまいました。オークはまた襲いに村へやってきます、恐らく更に数を増やし……」

「んぶふっ!」


 男が必死に訴えている中、急にダルマが吹き出した。


「ダルマ……」

「ち、違う! 確かに妾は笑ったがあの者を笑ったわけではない!」


 トクメの責めるような視線と声にダルマは焦り否定するかのように手を振った。


「その、誰とは言わぬがある者が心の中でこう呟いたのじゃ。……多くオークのオークが、と……ぶふっ」

「んっ! んふふっ」

「んんんんんっ」


 ダルマは自分で言った駄洒落にまた吹き出し、インネレは口を押さえて笑い声を抑え、トクメは声を出さないようにしているが明らかに笑っている。


「ああ……」

「え……え?」

「…………」


 王は天井を見上げながら額を押さえ、男は訳が分からず呆然とし、ムメイは異様なものを見るような目で軽く身を引いている。

 シスは何が起きたか分からずキョロキョロと周りを見回しているが、ヴィルモントは無表情で身動ぎ一つしていない。


 やがてしばらくしてから王がふーと深く息を吐き出してから話し出した。


「そなたの状況は分かった。すぐに討伐隊を派遣し村にも必要物資、村人達の避難場所も用意しよう。そなたはここで休んでいるがよい、お前達」

「はっ。ではどうぞ、こちらへ」

「あ、ああ……ありがとうございます……」


 王に呼ばれ入り口にいた騎士達は王とインネレ、アルバートに礼をしてから男を立ち上がらせると部屋へ連れて行った。


「……さて、話は聞いていたな。インネレ」

「んっ、ふふ……んんっ、はい」

「そなたには場を乱した罰として今言っていたオークの討伐に向かってもらう。ダルマとトクメもだ」

「え。……お、王は? 王も行かれますよね?」


 先程まで笑いを堪えていたインネレの表情が消えた。


「余は笑っていない。だから行かぬ。行くのはそなただけだ」

「そ、そんな……ではその間王の物を何かいただけませんか? 離れている間も王を感じていたいのです、髪の毛一本でも構いません」

「それでは罰にならぬだろう。却下だ」

「……。……はい、分かりました。この失態はオーク討伐で必ず取り返してきます」

「ああ、そうだ。そなたと共有している内臓もオーク討伐の間は戻してもらうぞ。交換しているのもだ」

「…………」

「インネレ」

「うぅっ……お、仰せのままに……!」


 王に言われ観念したのかインネレは崩れ落ちるように片膝をつき頭を下げた。


「わ、妾もかえ……んふっ。っん、妾は戦えんぞ」

「戦えなくとも現場には向かってもらう。インネレがいるのだ、オーク程度ならば怪我をする事もないから安心するがよい」

「あの、陛下。恐れながらインネレ・オルガーネ様だけでは戦力不足ではないでしょうか。この方は戦闘が出来ないようですし、それではインネレ・オルガーネ様の負担が大きく危険です。私も一緒に向かわせてください」

「駄目だ、これはインネレ達への罰と言ったであろう。騎士団最強と名高いそなたが行っては意味がない。それに騎士団長が出れば騎士達全員が着いていこうとするだろう、そうなればますます罰の意味がなくなる。そなたは待機だ。たまにはゆっくり身体を休めるがよい」

「陛下……。はい、分かりました」


 アルバートはあまり納得していないようだったが、それでも王の言葉に手を胸に当てながら頭を下げた。


「……っ」

「……トクメも戦えなかったっけ?」

「んっ、ふー……。いや、そんな事はない。ただ討伐の場合やり方を間違えるとゼビウスの機嫌が悪くなるから少し面倒なだけだ」

「丁度いい。シス、お前もこのオーク討伐に参加するように」

「え、何で」


 相変わらずヴィルモントは無表情のままシスに告げた。


「言っただろう、短期間とはいえお前には冒険者ランクを最低でもBランクまで上げてもらうと。帰りに運良くオークもしくはゴブリンの集団を見つけたり討伐の依頼を受けられるとは限らん。ならば受けられる時に受けるのが一番だ」

「いや、でもトクメいるし、ゼビウスいないし……」


 シスにとってはオーク討伐よりもゼビウスがいない状態でトクメと共に行動する方が怖いらしく、何度もヴィルモントとトクメの顔を交互に見ている。


「そこは心配いらん。私の従者を無駄に傷つけるならば、それと同じ以上の怪我を負わせるだけだ」

「お前のような子供からの脅迫に屈する程私は柔ではない。それにシスの件で既にゼビウスからこちらが従わざるをえない脅迫を受けているのでお前のやる事など無駄以外の何でもない」

「…………」

「……堂々と胸を張って言う事?」


 挑発に挑発返しされヴィルモントはトクメを睨んでいるが、ムメイはトクメの態度に呆れている。


「今回はムメイが巻き込まれていないなら……いいか。そういえば、ダルマが急に笑い出したのは何が原因だったんだ?」

「えっ。……諸悪の根源のヴィルモントに聞いたらいいんじゃない? ちゃんと説明してくれると思うわ」

「諸悪の根源?」

「…………」

「あの駄洒落を考えたのヴィルモントでしょう? シスは駄洒落を知らないし私は考えていない。そもそもダルマが庇った時点でヴィルモント以外に有り得ないもの」

「……魔物のお前には理解が難しいだろうが、言葉遊びの一種だ。同じ音か似た音の言葉を使った文、といえば分かるか? 例えば東の国で寝る時に使われるフトンという物がある。それと吹っ飛ぶという言葉を合わせて『布団が吹っ飛んだ』あとは内臓とない、という言葉を合わせて『ダルマには内臓がないぞう』などがある」

「……それは面白いのか?」

「面白いと感じているから笑っている。まあ私は場を弁えて吹き出すような事はしないがな」

「考えるのもしない方がいいと思うんだけど……それで今回の事みたいなのが起きたわけだし」

「あの、すまないがあまり駄洒落は言わないでもらえるか? インネレ・オルガーネ様達が出発出来なくなってしまう」

「あっ」


 アルバートが指を指した方向にはヴィルモントの駄洒落によって笑いすぎて姿が保てなくなり元の姿で床に伏せるトクメ、ダルマ、そしてこれが本来の姿なのであろう心臓に触手のようなものが巻きついたインネレ・オルガーネの姿があった。

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