異種族混合放浪記

第122話 親組とレイとジン

　ムメイ達が何とか危機を乗り越えた頃、トクメ達も探索を続けていたがこちらも瓦礫に邪魔され上手く進めずにいた。

「何というべきか……のう、違和感を感じぬか？」

「瓦礫や土砂を人工的に埋めている事か？　研究施設ならば処分出来ない何かがあってもおかしくない、こうして侵入されても探索されないようにしているのだろう」

「……なあトクメ、この上に空いている穴も人工的なものか？」

　前方と左右にばかり注意していたトクメ達は気づかなかったが、痛みに多少慣れてきたのか少し余裕の出てきたゼビウスが手持ち無沙汰に何となく見上げると丁度天井に穴が空いているのを見つけた。

「……流石にそこまでは分からん。だが大分時間は経っているようだ、廃棄されてから自然と出来たものだろう」

「つう事は、シス達が空けたわけじゃないか。……登った可能性は？」

「ムメイなら……いや魔法を使うのに負担がかかるここでは考えにくい」

「ヴィルモントも登る事はせんじゃろ」

「シスもわざわざ高いところに行く事はしないだろうし……ここは普通に進んで問題なし、と。よし、じゃあ進んでいいぞ」

「……随分余裕そうだな、歩くか？」

「誰かさんが傷口かき回してくれたおかげで毒の痛みが気にならなくなったんだよ。でも動かすとまだ痛いしこのまま乗っとく」

　確かにゼビウスの顔色は先程より断然良くなっており口調も明るく軽快だが、右手は相変わらず熱く少し浮腫んでいるのでトクメは何も言わず先へ進もうとして動きを止めた。

「トクメ？」

「誰か来るな……ムメイか？」

「いや、声からして子供の男の子が二人じゃ」

「あっ、わっ、魔物！？　レイ！」

「人が乗ってるから従魔だよ、大丈夫」

　ダルマが言うと同時に黒髪の少年が二人現れた。

　トクメ達の姿に一瞬驚くも、すぐに落ち着きを取り戻したが従魔扱いされたトクメは不満そうに目を細めている。

「誰が従魔だ、誰が」

「お前の事だろ、俺乗せてるし。まあ俺も人扱いされて不満だけど」

「えっ、人じゃないんですか？」

「神だよ。敬え人間」

「あと妾とそこのトクメは正確には魔物ではなく怪物じゃ。別に一緒でも構いはせんが妾達は自ら魔物と言うことないゆえ訂正させてもらうぞえ」

「えっ、え？　怪物？」

「とりあえず……さっきの人、あっ違ったえっと精霊さんや吸、ケルベロスさん達が言っていた冒険者じゃないんですね」

「精霊？」

「ケルベロス？」

「待ちなんし、そなた今何を言いかけた。きゅうと言ったな、もしや吸血鬼、ヴィルモントに会ったのかえ！？」

　先程レイと呼ばれた子供の発言から自分の子供の事と確信したトクメ達の目の色が変わり、特にダルマが食いついた。

＊＊＊＊＊＊

「えっと、そういうわけでしてムメイさんは蠢くものの毒を受けましたが無事解毒出来ていました。ヴィルモントさんも空腹はおさまりましたし、シスさんはとっても元気です」

　あれからダルマの答えを待たず早口で聞きまくる質問責めにレイとジンが泣きかけたところでゼビウスが電撃を放つ事で強制的に黙らせ、改めて一つ一つ聞くことでムメイ達の状況を確認する事が出来た。

「ムメイが……毒は問題ないとはいえ体力は消耗しているだろう」

「でもシスに乗っているなら大丈夫だろ。魔物だって蠢くもの以外はいないみたいだし、シスも特に怪我とかないみたいで良かった。となると、一番危ないのはヴィルモントか」

「え？　ヴィルモントさんも蠢くものには襲われていませんし空腹も落ち着いたって言ってましたよ。ねえ、ジン」

「う、うん。血の匂いに誘発されただけだから、少しで充分だって言ってました」

「変化も保てない程の空腹が少量の血液で満たされるわけないだろ、むしろ逆効果だ。ヴィルモントの性格を考えるとお前達に気を遣ったんじゃなくて普通に見栄張ったんだろ。まあ俺達が合流したところで素直に言う事はないし放っておくか」

「そうだな、それよりお前達には礼をやらねばならん。ゼビウス」

「はいはい、ほら手を出しな」

　トクメに言われ、ゼビウスは二人の手に先程の血が入った試験管を置いた。

　それも一番毒が濃い最初の二本を。

「えっ……いいんですか！？」

「受けた恩はその場で返しておかんと気が済まん、次に会う事もないなら尚更だ」

「えっと、えっと……」

「お礼を貰うほどじゃないって？　じゃあ有益な情報料として受け取ればいい。俺達にとって子供達の場所と状況が知れたのはお前達にとってこの蠢くものの毒と同じ、もしくはそれ以上の価値がある」

「……そういう事でしたら……」

　本当に受け取っていいのかジンが伺うようにゼビウスを見るとそう言われ、おずおずと受け取った。

「あの、本当にありがとうございます。何てお礼を言ったらいいのか……」

「そういうやり取りはもういい。ほら、早く行け」

「は、はいっ。ありがとうございました！」

「…………」

「…………」

　レイとジンが見えなくなってから動き出そうと考えていたトクメ達だが、何故か二人もこちらを見たまま動かない。

「……出口、行かねえの？」

「あ、えっと、その……ヴィルモントさんに教えてもらった場所にある毒液も採取しようと思って……せっかく教えてもらったので……」

「ああ、そういう……ちなみにその場所は？」

「……えっと……そこの穴を登ってすぐの部屋です……」

「…………」

　その穴の真下にはトクメとゼビウス。

　つまり、トクメ達が先に動かないと二人も動きようがない。

　なんとも言えない微妙な沈黙が流れた。

「……よし、俺達が先に行くか」

「そうだな。……ダルマ、早く起きんと置いて行くぞ。ヴィルモントの所へ向かうのだろう」

「はっ、そうであった！　こんなところで気絶して気を失っている場合ではなかった！　ヴィルモント達はすぐそこなのじゃろう！　はよう行かねば！」

「あのっ！　本当にありがとうございました！」

「ありがとうございました！」

　そのまま二人はトクメ達の姿が見えなくなるまでずっと頭を下げていた。