第91話 ダルマの本来の姿
突如森に現れそのまま何の声もなく消えて行った冒険者や生物の声が全くしない森を調べる為シス達はそこへ足を踏み入れたが、早速異常事態が起こった。
「……何で元の姿に戻ってんだ? 俺は変化を解いてねえぞ」
「私もだ。魔法や結界なら何かしら魔力の干渉がある筈だがそんなものは一切なかった、薬もだ」
自分の意思に関係なく変化が解除され、敵の攻撃なのかと辺りをキョロキョロ見回すがそれらしい気配は何もない。
しかし視界の端に蠢く何かを捉えそちらを向くと、今まで見た事のない大きさの蛇のようなものがおりシスは思わず飛び退いた。
「むむ、この場所は魔法だけでなくありとあらゆる力が無効化され効かなくなる力でもあるのか?」
「その声……もしかしてダルマか?」
「そうじゃ、そなたは……シスか。ほほう、頭が三つあるオルトロスとはまた珍しい」
「ダルマは確か胴体部分と言っていたが……」
ダルマの元の姿は淡い黄色の身体にトクメよりは少し細い横幅、三メートルは超えていそうな程の長さをしたヘビのような姿をしているが、頭と思わしき部分も尻尾もなく最初から最後まで同じ太さになっている。
「……ヘビ、ではないんだよな」
「紐と言っただろう。それよりも変化が解けた原因だ、近くにそれらしいものはないのか?」
「特に変な気配はしねえし……いやそれどころか生き物自体の臭いがない?」
「声が聞こえぬのは何かしらの原因で生物が消えたと思ったのじゃが、臭いまで残らぬのはおかしいの。時間経過で消えたとしても少なくとも今朝の冒険者の臭いは残る筈じゃが……トクメ、この地に何があったか分からぬか」
「分からんな。私は対象者の過去を読めるのであって、過去の出来事を再生するのは別の者の能力だ」
変化が解けただけで村に戻るわけにもいかずそのまま森の中を進んでいくが、どれ程進んでも景色は変わらず何の変化も起きない。
話す事もなくひたすら無言で進んでいたが、トクメが不意に足を止めた。
「どうしたのじゃ? 何か見つけたのかえ」
「……何となくではあるが……同じ場所を歩き続けていないか?」
「…………」
後ろを振り返るも音や気配がない以外は特に変わった所のないただの森が続いている。
シスは無言で右の前脚に噛みつくと一房程の毛を毟り地面に落とした。
「とりあえずこのまま先に進んでみよう。そうすれば分かるだろ」
既にこの時点でトクメの言葉が当たっていると感じていたが、それでも全員黙ったまま真っ直ぐ進んでいく。
そして五分程歩いていると前方に何かを見つけ、シスは真っ先に駆け出した。
顔を近づけ確認してみればそれは先程落としたシスの毛。
遅れてやってきたダルマは驚いた顔をしているが、トクメは面倒臭い事になったと言わんばかりに顔を顰めている。
「妾達は確かに真っ直ぐ直進していた筈じゃ。それがここにあるという事は……」
「閉じ込められたか。しかしいつの間に?」
「魔物や冒険者も閉じ込められたのなら遭遇する筈だよな、死んだとしても残骸ぐらい……ん?」
その時前方に何かを感じシスは顔を上げた。
「なあ、あれは……何だ?」
先程までは何の変化もなかった森の前方が黒くなっている。
「のうトクメ、今の時代はあのようにいきなり森がなくなり黒くなる現象があるのか……?」
「そんなものはない。こちらに近づいて……いや違う、これは……」
黒くなっているのは前方だけではなかった。
全方向からシス達を円で囲むように黒くなっていき、その黒の向こう側は何も見えない。
「これ逃れるか?」
「無理だな」
トクメが素っ気なく告げると同時にシス達はその黒に飲み込まれた。
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