第76話 お金がないわけじゃないけどお金がない
ゼビウスが旅行に加わってから一週間。
ムメイ達はまだ最初に来た街に留まっていた。
「流石にいすぎじゃねえか? あいつら本当に魔界に行く気あんのかよ」
トクメとゼビウスはまた何処かへ出かけたらしく、ムメイとシス、レヴィアタンはいつぞやの時と同じく部屋に集まっていた。
今回はレヴィアタンもちゃんとお菓子とお茶を勧められてから口にしているので電流が流れる事はない。
「この街に来た時に船の予約をしていたから一応行く気はあると思う。ただ出発は十日後だから、あと三日はここにいるみたいだ、が……」
レヴィアタンの疑問に何でもないように説明していたシスだが、ムメイとレヴィアタンがお茶の手を止めジッと見つめていたので思わず口を止めた。
「……聞いていないのか?」
「全然」
シスは街についたその日にゼビウスから世間話混じりに聞いていたが、相変わらずトクメはムメイに全く話していなかった。
これに関しては聞かないムメイもムメイだと言えるのだが、今までが今までだっただけにトクメの接し方への誤解が解けたとはいえ普通に話すのはまだ時間がかかるらしい。
単に『ムメイには友達がいない』発言を筆頭に今までのデリカシーに欠ける言動をまだ根に持っているだけなのかもしれないが。
「あと三日もここにいんのかよ。ずっと部屋に籠もってんのも飽きたし俺達もどっか出かけようぜ」
「出かけるのはいいけど何処行くの」
「とりあえず飯行こうぜ、食いながら決めればいいだろ」
「お金は?」
ムメイの言葉に沈黙が流れる。
「お前持ってねえの?」
「現金持つの止められてるからないわ。換金できるものはあるけど基本所有権はトクメにあるし、好きにしていいとは言われているけど後が鬱陶しい事になりそうだから使いたくない」
「お前は?」
「残っていた金は全部ウィルフに渡してきたから何もない」
「げえ、お前ら金無しかよ」
「そういうレヴィアタンはどうなの」
「俺はちゃんとあるぜ! ……まあ、魔界に戻らねえといけねえけど……」
「なら私達と同じじゃない」
再び部屋に沈黙が流れる。
今までの代金は全てトクメかゼビウスが払っており、シスもお金を使う必要がなかった為何も考えずのんびり過ごしていたが、流石に無一文はまずいのではとそれぞれ危機感を持ちはじめた。
「……冒険者ギルドに行くか」
「ここにいるよりはマシだろ」
「せっかくだから私も行くわ。入るぐらいなら出来るでしょ」
******
「あら? 貴方はDランクですね。でしたらこの依頼をお受けする事は出来ません」
全員でギルドへ行き簡単な依頼を受けたはいいが、受付にそう断られてしまった。
「そういえばそんな仕組みだったか。今まではウィルフが受けていたからすっかり忘れていた」
「え、お前ワイルドウルフ倒せてねえの?」
「向こうが近づいてこないし、逃げるのを追いかけるのはちょっと……」
相手から襲ってくるならともかく、逃げたり怯えたりする相手を追いかけるのは過去にドラゴンやらフェンリルなどの強者から逃げまくっていた時の事を思い出してしまい、どうしても躊躇ってしまうらしい。
一応Dランク用の採取依頼はあるのだが、一番低いランクだけあって報酬は食事代には全く足りず小さなパンを一つ買えるかどうかの額しかない。
「魔物の買取ならいけるんじゃないか」
「この辺りの魔物ってシスに怯えて出てこないと思うんだけど。シスに宿で待ってもらったとしてもレヴィアタンがいたら同じだし、私だけだと身分の関係で魔物以外の奴に絡まれるからこれも駄目ね」
「…………」
ちなみに海へはギルドが格安で船を出してくれるが前払い制なので、そもそも金のないムメイ達は頼めない。
「人の来ない奥地なら……いやそもそも出てくるかどうか分からないから駄目だ。それに帰るのが遅くなってゼビウスに心配かけたくない」
「……そうなったらあいつら絶対こっちに攻撃してくるから俺も反対。なあ、もうこの際お前の自空間から物出そうぜ。ちょっとぐらいならバレねえだろ」
「相手の物勝手にどうこうしたくないからお断り。どうしてもってならレヴィアタンが頼んだら?」
「うっ。じゃあそのトクメじゃなくてお前が自由に出来る物は? 一つぐらいあるだろ」
「……一応あるけど」
「あるのかよ! ならそれ売ろうぜ! 高値で売れるやつだよな!」
「世界樹の葉だから高額は確かだけど……」
「は?」
「だから、世界樹の葉。世界樹を移動させたり何かしたりするのは駄目だけど、葉を取るぐらいなら構わないとは言われている」
ただトクメの言葉をそのまま信じるつもりはないムメイは今まで一度も使っていない。
「世界樹の葉を売るのは流石に危なくないか?」
一般的に世界樹の葉は不老不死の薬の材料とされ、葉だけでもあらゆる病を治す万能薬だと噂されている代物でありそれを買い取れる程の額を置いている店はそうそうない。
たとえ店を見つけても本物かどうか疑われ下手すると詐欺として逮捕、本物と知られれば入手先などの情報目当てで身柄を拘束される可能性が非常に高い。
更に持ち主が永久奴隷であるムメイと分かればどんな扱いをされるかは言うまでもない。
依頼は受けられない、魔物を倒しに行こうにも時間が足りなくて行けない。そして最終手段、世界樹の葉は危険すぎて売れない。
金を得る為の手段がことごとく潰れていきお互いがお互いの顔を無言で見つめ合う。
「あれ、ちょっと待て、もしかしてこれ詰んでいるんじゃないか?」
「お金、全くないわけじゃないんだけど……」
「使えないんじゃ意味ねえー!」
他に何か手段はないかと考えても良い案は全く浮かばず、結局ムメイ達は出発日まで宿で大人しく過ごすはめになった。
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