TURN7:マッドなパーティ【前編】

(解せぬ!やっぱり解せぬ!!)

 現実世界からカードアニメ『デュエルオムニバース』の世界に転生してしまった少年タカシ。今日はとても機嫌が悪かった。その理由はただ一つ。

(何で主人公…切藤遊太に勝てないんだー!!)

(一回や二回負けたならまだ分かる。でも十連敗だぞ!?別に不利なマッチアップではないし、プレミもしてない。そして何より…)


タカシ 残りHP:4000

遊太 残りHP:100

(このターンを凌げれば次のターンで攻撃して勝てる!)

「来たぜ!俺の切り札!!これで逆転だ!!」

(あああああああああああ!!!)


(いつも圧倒的優勢、次の攻撃が決まれば勝ちって状況で大逆転されて負ける!!いくら何でもおかしくないか!?)

「ん!よ、タカシ!!」

 公園のベンチで頭を抱えるタカシに一人の少年が話しかけてきた。タカシが十連敗している相手、遊太である。

(考えてたら本人登場…なんつータイミング…あ、そうだ)

「また会ったな!今日もデュエルするか?」

 タカシは首を横に振る。

「あ、今日はいいです…それよりも頼みが」

「頼み?何だ?」

「あの、デッキ見せてくれませんか?俺のも見せるんで」

「デッキを見せて欲しい?いいぜ!」

(よっしゃ!デッキを見れば何か秘密が分かるかもしれん!)

 自分のデッキを遊太に渡し、遊太のデッキを受け取るタカシ。そしてデッキの上からカードを一枚ずつめくっていく。

(ふむ)

(うん?)

(うーん??)

「…なあにこれえ?」

 遊太のデッキを見て思わず呆れてしまうタカシ。

(デッキ構築の基本は…)


~タカシのデッキ構築レッスン!~

 デッキを組むときは次の四つのポイントを意識しよう!

・下級モンスターを中級・上級に進化させるにはタイプと分類を揃える必要がある。デッキに入れるモンスターのタイプ・分類は1~2種類に絞ろう!

・上級モンスターは下級がいない状態で引くと場に出せず役立たない!だから上級モンスターの枚数は少なめ、逆に下級モンスターは多めにデッキに入れよう!

・自分のターンに欲しいカードがドローできるかは運次第。少しでもドローできる確率を上げるため、よく使うカードは多めにデッキに入れよう。同じ名前のカードは最大で3枚までデッキに入れることができるぞ。

・ドローソース(手札を増やす効果を持つカード)やサーチカード(山札から好きなカードを探す効果を持つカード)も多めにデッキに入れよう!欲しいカードを引く確率を上げることができるぞ!


(で、肝心の遊太のデッキはというと…)


・入ってるカードのタイプ・分類はバラバラ

・上級モンスターの枚数がかなり多い

・サーチカードはあまり入っていない。ドローソースもやや少なめ。

・ほとんどのカードが1枚ずつしか入っていない


(はっきり言って初心者の小学生が組んだデッキよりもひどいレベルである!)

 タカシは試しに遊太のデッキをシャッフルし、上から4枚を引いてみた。引いたカードは『エレメンタル・マジシャン(上級・闇タイプ・魔術師)』『岩石の兵士(下級・地タイプ・岩石)』『ダブルヘッドドラゴン(中級・風タイプ・ドラゴン)』『オーシャンホース(中級・水タイプ・獣)』の4種類であった。

(うん!タイプも種族も全然揃わん!こんな構築じゃ手札事故起こすわな普通!)

「どうしてこんなデッキで回るんだ…?」

「ん?回る?意味はよく分からないけど…俺は俺のデッキを信じている!俺が『勝ちたい!』って思えば、それにカード達は応えてくれるんだ!!」

(まるで意味が分からんぞ!)

「ところでお前はデッキに同じカードを何枚も入れてるんだなー!やっぱゲロゲモンスター達が好きだからいっぱい入れてるのか?」

「まあ…うん…」

(いや、使うカードは多めに入れなきゃ普通は回らないから!!)

「はあ…ん?」

(何だこの寒気…何やら視線を感じるような…)


「他の人のデッキ見せてもらうのも面白いな。参考になったぜ!次はデュエルしてくれよな!じゃーな!!」

「…うん」

 遊太と別れるタカシ。

「ちょっとアンタ」

「うわっ」

 声をかけられて驚いて転ぶタカシ。振り向くと、そこにいたのは…

(アイラ…?)

 間宮愛良はデュエルオムニバースに登場するヒロインの一人である。主人公の遊太とは幼馴染。見た目の特徴はロングの黒髪と釣り目、そして何よりも…

(胸でっけーなあ…このサイズで中学生とか二次元ってやっべーな)

 上の方のボタンを外し、着崩された制服の隙間から見える胸元を思わずじっくり見てしまうタカシ。男の欲望には逆らえない。

(って、そんなこと考えてる場合じゃなかった)

「えっと…何…ですか?」

「アタシとデュエルしなさい!!」

「へ…デュエル?何で?」

「アンタ、最近随分と遊太と仲良くしてるじゃない」

(ん?仲良く??…言われてみれば何回もデュエルしてるし、前よりは仲良くなったのかな…?そのつもりはなかったのだが…)

「アタシが勝ったら遊太にこれ以上付きまとわないでくれる?アンタがいると…イライラするのよ…」

(んん?俺、まさか嫉妬されてるのか?あ…)

 タカシは前世の記憶から、愛良に関するある事実を思い出した。

「あの…もしかして…遊太が好きとか…?」

「…はああああああああああ!?べ、別に!!す、好きとか!!そんなんじゃないし!!!へ、変なこと言わないでよ!!!」

(わー顔真っ赤。お手本のようなツンデレだー。流石ヒロインかわいいなおい)

「と、とにかく!!遊太のライバルはこのアタシ!ライバルは二人も必要ないってことをデュエルで証明してみせるわ!!」

 デュエルガジェットを構えてやる気十分な愛良。

「あ…いや…別に…俺はライバルとかじゃ…」

(うーん…あ、でも主人公には勝てなくてもヒロインには勝てるって可能性はあるか?検証がてらやってみる価値はあるかも)

 タカシはデュエルガジェットを構える。

「ふん!やっとやる気になったみたいね!さあ行くよ!!」

「「デュエル!!」」


『あなたの先行です』

「ターンもらいます。ドロー」

(さて…前世の記憶によるとデュエルオムニバースのアニメにおける愛良はデュエルでは噛ませ役が多く、わりと不遇だったらしい)


愛良

HP:4000 AC:0 手札:4枚

タカシ

HP:4000 AC:3 手札:5枚


(しかし愛良が使うカード『悪夢舞踏会ナイトメアパーティ』はマジで強い。前世の世界では公式大会上位の常連…ガチデッキの一角だった。今回は前世の世界でのガチデッキと戦う気持ちで望む必要がありそうだ)

「『クイックコール』使います。『ヨブゲロゲ』捨てて『リボンゲロゲ』サーチで」


AC:3→2

『クイックコール』 マジックカード

 自分の手札を1枚捨てる。そうしたなら、自分の山札から好きな下級モンスターを1枚選んで手札に加える。


(そんな悪夢舞踏会デッキだが、もちろん弱点も存在する)

「リボンゲロゲ召喚、効果でヨブゲロゲ蘇生、さらにヨブゲロゲの効果でドロゲロゲをデッキから召喚します。ドロゲロゲの効果で1枚ドロー」

「1回の召喚で一気に3体…アンタの十八番コンボね…」


AC:2→1

『リボンゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、自分の墓地にある名前に『ゲロゲ』と付く下級モンスターを1体選び、召喚する。(このターン中にリボンゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


『ヨブゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、自分の山札にある名前に『ゲロゲ』と付く下級モンスターを1体選び、召喚する。(このターン中にヨブゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


『ドロゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、場に水タイプの爬虫類モンスターが2体以上いるなら、自分の山札から1枚ドローする。(このターン中にヨブゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


「リボンゲロゲ、ヨブゲロゲ、ドロゲロゲの3体でエクストラ」

 3体のゲロゲモンスターがデュエルガジェットに吸収され、濁流と共に新たなモンスターが姿を現す。

「好きな四字熟語は先行制圧!今回はちゃんと先行1ターン目で出せた!いでよ!沼地の支配者ゲロゲロック!」

「ゲーロゲー!!」

(それはマジックロックには弱いこと!)


『沼地の支配者ゲロゲロック』

エクストラ タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:1500 防御力:1800

召喚条件:水タイプ爬虫類下級モンスター×3


「素材にしたヨブゲロゲを墓地に送り、ゲロゲロックの効果発動。対象マジックで」

 ゲロゲロックがギターから放つ騒音が周囲に鳴り響く。

「っ…これでお互いのプレイヤーは次のアタシのターンが終わるまでマジックカードを発動できないということね…」

(悪夢の舞踏祭デッキは墓地にモンスターがたくさんいるほど強くなるデッキ。素早く墓地を肥やすために俺がさっき使ったクイックコールのような、墓地にモンスターを捨てる効果を持つマジックカードを多様する必要があるのだ。つまり先行でマジックロックを仕掛けることができた今回はかなり有利!!)

「1枚裏側カード出してエンドで」


AC:1→0

裏側カード:1枚


「アタシのターン!ドロー!!」

(さて、問題はここからなんだよな…)


愛良

HP:4000 AC:3 手札:5枚

タカシ

HP:4000 AC:0 手札:3枚


(遊太は普通ならまともに動けなくなるはずのマジックロック下でもデッキを回してきた。愛良も同じように回してくるかも知れないんだよなあ…止まれ!止まれ!!)

「っ…ミミックドールを召喚!」

(…お?)

 ボロボロのぬいぐるみで身を隠した怪しげな影が姿を現す。


AC:3→2

『ミミックドール』

下級 タイプ:闇 分類:ゴースト 攻撃力:800 防御力:1000


 愛良は苦しそうな表情を浮かべている。

(お?お?お???これは???)

「…ターンエンドッ!!」

(事故ったか!?事故ったんじゃね!?よしよし刺さったぞ!!)

 ニチャア、と気色の悪い笑みをタカシは浮かべる。

「ターンもらいます。ドロー」


愛良

HP:4000 AC:2 手札:4枚

フィールド:ミミック・ドール


タカシ

HP:4000 AC:3 手札:4枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック

裏側カード:1枚


(相手の動きを止めて一方的に叩きのめす!それがロックデッキの真骨頂!これは引き次第ではこのターンで決められるぞ!!)

「『魔鎖鬼の壺』使います。2枚ドロー」


AC:3→2 手札:3→5枚

『魔鎖鬼の壺』 マジックカード

自分の山札から2枚ドローする。


(よしよしサーチ引いた!これなら行けるわ!!)

「アクアコール、デッキからリボンゲロゲサーチします」


AC:2→1

『アクアコール』 マジックカード

自分の山札から好きな水タイプのモンスターを1枚選んで手札に加える。


「リボンゲロゲ召喚。効果でヨブゲロゲ蘇生し、ヨブゲロゲの効果でデッキからミラゲロゲ召喚。その効果で手札のミラゲロゲ出します。」


AC:1→0

『リボンゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100


『ヨブゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100


『ミラゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、自分の手札にある『ミラゲロゲ』を1枚選び、コストを支払わずに召喚してもよい。(このターン中にミラゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


「今度は一度にモンスターを4体も…!!」

「リボンゲロゲとヨブゲロゲでエクストラ召喚。毒沼のゲロゲポイズン!」

 2体のゲロゲモンスターがガジェットに吸い込まれ、猛毒カエルが毒沼から現れる。


『毒沼のゲロゲポイズン』

エクストラ タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:1000 防御力:1000

召喚条件:水タイプ爬虫類下級モンスター×2


「さらにミラゲロゲ2体でエクストラ召喚。ウォータースナイパー出します!」

「二連続でエクストラ召喚!?」


『ウォータースナイパー』

エクストラ タイプ:水 分類:アクア 攻撃力:1000 防御力:1000

召喚条件:水タイプモンスター×2


「素材にしたモンスター1体を墓地へ送ってゲロゲポイズンの効果発動。1ターンに一度、相手モンスター全員の攻撃力と防御力を1000マイナスします」

「くっ…」

 ゲロゲポイズンの猛毒がミミックドールを包み込む。


ミミックドール 攻撃力:800→0 防御力:1000→0


「さらに素材モンスター1体を墓地に送ってウォータースナイパーの効果。1ターンに一度、相手プレイヤーに500ダメージを与えます」

「ちぃっ!」

 ウォータースナイパーの放つ水の弓矢が愛良に襲いかかった。


愛良 HP:4000→3500


「そして素材を墓地に送ってゲロゲロックの効果も発動。当然マジック!」

「ううぅ!」

(よし、ここまでやれば十分だろう!)

「バトル入ります。ゲロゲポイズンでミミックドールを攻撃」

「ミミックドールの効果発動!1ターンに一度、バトルでは破壊されない!」

「でもダメージは通りますね」

「うっ!」


毒沼のゲロゲポイズン 攻撃力:1000

ミミックドール 防御力:0

愛良 HP:3500→2500


「ウォータースナイパーでミミックドールを攻撃」

「うううっ!」


ウォータースナイパー 攻撃力:1000

ミミックドール 防御力:0

愛良 HP:2500→1500


(これで相手の残りHPは1500!次の攻撃が通れば勝ち!!)

「ゲロゲロックでプレイヤーに直接攻撃!」

 ギターを持ったゲロゲロックが愛良に迫りくる!

「っ…!!」


To be continued…

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