8、真ラスボス戦(終末エンドも物理で回避)

『殲滅してくれる!』

 "大崩壊の亡霊"と一体化した虚空の叫びに呼応し、10体の黒ププトが一斉に襲い掛かってくる。


「ひぃっ!」

「うわぁ!!」

「きゃぁっ!!」

 悲鳴を上げ逃げ惑う人々、黒ププトの凶刃に襲われる! まさにその瞬間、上空から飛来したひし形の板が、ププト達を弾き飛ばした。


 その板は硬質な金属製だが、金属特有の光沢が無い艶消しの黒色で、地面から数十cmの高さで滞空している。同様な板が30枚飛来し、人々と黒ププト達とを隔てるように整列した。


 遅れること数拍、ゴォンという音を立て人型の全身甲冑がクロスの目の前に着地した。その全身甲冑も黒色で、背中には大ぶりな太刀を二振り担いでいる。

 シューという蒸気が漏れる音と共に全身甲冑の背中が展開し、内部の空洞が露わとなる。クロスはそこへためらうことなく飛び込んだ。


 クロスを飲み込んだ甲冑は、アイカメラに光を宿し生き物のように動き始める。

「黒いププトはどうせ倒してもまた増える。フロートシールドに防がせておけばいい。ヴィラ、鉄機獣を頼めるか」

 クロスは全身甲冑の中から、ヴィラに問いかける。

「まかせて」

 ヴィラは笑顔で頷き、その手から無数の戦輪を放出した。


 そのヴィラの横に、レクスリーも並ぶ。


「勘違いするな。民を護るのが皇族たる者の務め。なれ合いではない!」

 レクスリーが大剣に赤い火を灯す。


「いい所だけ、持っていかれては立つ瀬がないですからね」

 ジャスは周囲に水弾を浮かばせながら歩み出た。


「親友、背中は任せろ」

 ルアシャは拳を打合せ、全身の閃気を漲らせる。


「あ、自分はしっかり観戦しとくんで」

 ピラットはサササーッと下がり、非戦闘員の集まりの中へと消えていった。


「僕と、」

「私が、」

「皆を護ります」

 リウスが盾を構え、アトラが杖を展開する。


「あぁ、頼む。俺はアレを……」

 クロスはアイサイト越しに、蜘蛛型に変異した"大崩壊の亡霊"、それを操る虚空を見据えた。


「片付ける!」

 背部にマウントしていた太刀二刀を抜刀し、コォォォォォンとおいう高音を立ててクロスが突貫する。

 それに呼応し、全員が鉄機獣目掛けて疾走していく。


みなごろしにせよ!』

 10体の黒いププト達が非戦闘員の人々に襲い掛かるが、重力操作で高速移動するひし形の盾"フロートシールド"に弾かれ、吹き飛ばされる。


「はぁぁぁ!」

 リウスが月影つきかげから防壁を放出する。その圧により黒ププトの1体が消失する。が、すぐに黒い染みから新たな1体が出現する。


 そこへ殺到する閃気弾。明星みょうじょうから乱発された閃気弾が、数体の黒いププトを吹き飛ばす。

「その身に力を!」

 アトラが明星みょうじょうに閃気を籠め、光を放つ。


 その光がジャスに届き、彼の背中を後押しする。

「助かりますよ!」

 細く鋭い水塊を生み出し、ドリルのように回転するソレを連続で撃ち出す。

 ジャスに飛び掛かる鉄機獣の胴体を、その水塊が穿ち貫通する。


 胴体に風穴を空けられて静止した鉄機獣、その側面へ、

「破っ!」

 ルアシャの強烈な拳打が炸裂すると、その巨体がありえない速度で吹き飛んでいく。

 吹き飛んだ先で別の鉄機獣と激しく衝突する。


「俺に獲物を譲ろうとは! 見上げた心がけだ!!」

 赤い閃光を迸らせ、2体の鉄機獣を両断するレクスリー。ドォォォォンという音を立て、2体が爆散する。その爆炎を黄金の閃光が貫き、更にその先にいた別の鉄機獣に激突する。


 激突を受けた鉄機獣がぐらりと傾く。その横では、華麗なドレスのスカートを翻し、美しいほほえみを浮かべたヴィラが滞空していた。そのほほえみは、直後に獰猛な嗤いに代わり、ヴィラは強烈なボディブローを追撃として鉄機獣に叩きこんだ。

 胴体を大きくひしゃげ、ギギィィと呻きを上げながら鉄機獣は仰向けに倒れ──、ることをヴィラは許さない。浮き上がった鉄機獣の周囲に黄金の閃光が渦巻き、首がもげ、四肢が裂断、胴を貫通したヴィラの手に鉄機獣の核が握られ、直後に握りつぶされる。


 散らばる鉄機獣のかけらが落下し終わるより早く、再び黄金の閃光へと変貌するヴィラと交錯するように、黒い全身甲冑が疾走する。

 その太刀の刀身は黒く染まり、周囲の景色を歪ませる。


『何故だ! 何なのだ貴様らは!!』

 蜘蛛型の"大崩壊の亡霊"から、不可視の閃刃が大量に放出される。しかしクロスが着る全身甲冑に搭載されたセンサーは、それをの存在を残らず暴き出した。

 甲冑が持つ重力機関がキィィィンという高音を発し、クロスは更に加速する。不可視の閃刃を避け、叩き、斬り潰し、速度を緩めることなく"大崩壊の亡霊"へと接近する。


『ち、近寄るなぁぁぁ!!』

 顎を開き、漆黒竜と同じ黒炎を吹き付ける、が、ガクンと軌道を落としたクロスはその黒炎の下をくぐり抜け、"大崩壊の亡霊"の横を斬り抜ける。


『ガァァァッ!』

 "大崩壊の亡霊"は8本足のうち3本が切断され、呻きを上げる。


『お前ごときにこの我がぁぁぁぁぁ!!』

 "大崩壊の亡霊"は宙に浮かび上がり、残り5本の足全てから、虚空の模造刀を出現させる。


『切り刻む!』

 浮かぶ"大崩壊の亡霊"は、5本の模造虚空と、そこから発する無数の閃刃でクロスを襲う。

 が、クロスは二刀の太刀で、そのすべてを斬り伏せる。模造虚空ですら鍔迫り合いにもならず、クロスの振るう黒い刃に触れた瞬間、刀身が砕け散った。


『な、なんなのだ、その刀身は!』

 クロスの放つ二刀の斬撃により、"大崩壊の亡霊"のボディが十字に切り裂かれる。

「超高密度の重力子で形成された重力刀だ。あらゆる物体を超高重力で圧壊する」

『あ、がっ』

 損壊が限界を超え、蜘蛛の形が崩れ落ちる。

 どろどろと流れ落ちる黒い粘液の中から、虚空を手にした5mほどの黒い巨人が現れる。


 その身体には、意識の無いププトと、虚ろな表情の"大崩壊の亡霊"本体が取り込まれていた。


『まだだぁぁぁぁぁ! まだ終わっていないぃぃぃぃ』

 黒い巨人は、虚空を振り上げ天に吠えた。だが、その虚空にはヒビが入り、今にも砕けそうだ。


 "大崩壊の亡霊"本体の首に下がっている十字架もまた、ヒビで崩壊寸前となっていた。その鎖が切れ、十字架が地面に落ちる。

 途端、10体の黒いププトは、氷が解けるように消え去った。


『チッ、霧消むしょうが切れたか……、だがまだ鉄機獣が……』

 そこで虚空は初めて周囲が静かであることに気が付いた。


『鉄機獣が……?』

 黒い巨人は、白鱗を持つ者たちに囲まれていた。30以上居た鉄機獣は、すべて彼らにより屠られ、鉄くずへ変えられていた。


『ば、ばかな、これだけの戦力が……、数十年かけ、育てた鉄機獣が……』

 "育てた"という言葉に、ヴィラの殺気が膨れ上がる。が、ヴィラは目を瞑り、心を落ち着かせる。


「"大崩壊の亡霊"!!」

 ヴィラの声に、黒い巨人に半分埋まっている"大崩壊の亡霊"の本体がピクリと反応する。

「そう、呼ばれていたのだろう? そんなところに居ないで、こちらに来い」

 ヴィラは手を伸ばす。

「その……、友達になら、なってやれる……、だから、生きろ」

 "大崩壊の亡霊"本体は、しばしヴィラをまばたきしながら見つめ、その目に光を取り戻し、もがきながら黒い巨人から這い出してきた。


『なっ、我の支配を逃れるだと!?』

 這い出した"大崩壊の亡霊"本体を、ヴィラが助け起こす。

 "大崩壊の亡霊"本体が抜けたことで、黒い巨人すら維持できなくなったのか、どろどろと体が解け始める。


「やっぱり乗っ取ってるんじゃないっすか~」

 もう安全と認識したのか、偉そうな態度でピラットが現れた。


「ププト先生!! 先生もこっち来ちゃいましょう! そんな危険思想な剣、捨てちゃったほうがいいっす!」

 ピラットが語り掛けているが、解けて崩れていく巨人から流れ出たププトは意識が無いままである。

 やれやれと呟きつつ、レクスリーがププトを引きずって虚空から遠ざける。



『はっ、ははは、はーっはっはっはっはっはっはっ! そうか、これで"悪役"は我一人というわけか!』

 巨人はもはや普通の人間程度にまで縮み、尚も崩壊を続けている。そのような状態にもかかわらず、虚空は愉快気に高笑いした。


『いいだろう。我に全ての咎を押しつけ罰するがいい。だが覚えておけ、この世界は滅びを繰り返す。そういう運命なのだ。我が滅せられようとも、その運命は──』

「あー、そういう"いかにも"な捨て台詞はいいっす。もちっと凝ったこと言ってほしいっすね」

『……』

「ちょ、おま、せっかくだから、最後まで言わせたげて……」

『くはっ……』

 それ以上何も告げず、虚空は崩壊した。


「締まらない! 最後なのに締まらない!!」

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