第24話 僕の軍師

 暫くパピーの背中でのんびりと風を感じる。

 パピーの飛行は速いけれど、さすがにオルヴァンスの王都からエルフの隠れ里まで、一瞬でぴゅーっ、というわけにはいかない。

 後ろを見ると、アリサは弓手として警戒しているかのように周囲を見渡している。そして、そんな僕たちに会話はない。

 まぁ、のんびり行けばいいかなー、とか思いながら――。


「ノア様」


「うん……ん?」


 ふと、そんな風にジェシカに声をかけられる。

 ちなみにジェシカは、乗ったときと同じく僕の前に座らせている。さすがに高いところだし怖いのか、その両手は僕の袖を握っている状態だ。

 ジェシカがそんな風に握っているせいで、僕もちょっと動けなくて辛かったりする。


「あ、あの、いくつか、ご質問をよろしいでしょうか?」


「あ、うん。いいよ」


「ノア様の国は……グランディザイアは現在、どれくらいの領地をお持ちなのでしょうか?」


「あー……」


 言っちゃっていいのかな。

 ジェシカのいる前で、『まだ大使館とかないよ』という件はフェリアナに説明してるし、疑問に思うのも仕方ないのかもしれない。

 領地がまだ森しかないってことは、フェリアナにもちゃんと言ってるし。


「僕たちの国は、森だけだよ。リルカーラ遺跡から西の森」


「西の森……もしや、『魔の森』ですか?」


「そう呼ばれてるの?」


 なんか、大仰な名前がついてた。

 もしかして、割と危険な森なのかな。レベルは大体30台から40台くらいで、そんなに強い魔物がいるイメージはないんだけど。

 もしかして、パピーがいるせいとか?


「なるほど、『魔の森』が領地……」


「それがどうかしたの?」


「あ、いえ! それでしたら納得です。母上から、ノア様は石材や木材を大量にお求めだと聞きましたので」


「あ、うん」


 実際問題、木材はどうにかなるけど、石材についてはフェリアナ頼りだ。

 まずは帝国側にオルヴァンスからの石材で城壁を作って、その後は森の木を伐採して、どうにか領地を広げて、そこに家を建てて……考えるだけで、工程が多くて僕じゃ処理しきれない。

 でも、どうにかしてやっていかなきゃいけないよね。僕、王様だし。


「ということは……現在、帝国の侵略に対する準備はできていないと、そういうことですね?」


「え……どういうこと?」


「あ……え、ええと、気を悪くされたのでしたら、申し訳ありません! で、ですが……その、遠からず、グランディザイアとオルヴァンスが結んだという報せは、帝国にも届くでしょう。その際に、帝国が先にグランディザイアへと攻め込んでくるのではないかと」


「……そう、なのかな?」


「オルヴァンスと結んだことにより、帝国はグランディザイアと敵と見做します。仮想敵国でなくなった以上、先制攻撃を仕掛けてくる可能性はあります」


 それもそうなのかな。

 いや、僕には分からないんだけど。もしかしてジェシカって、すごく頭いい?


「いえ……その、お話を伺うに、今ノア様は、途方もないことをされているのではないかと思いまして」


「途方もないこと……」


「はい。何もない森に城壁を作り、城を作り、家を作り、そこを首都として国の形を作る……それは、あまりにも途方がないかと」


「……」


 確かに、言われてみればその通りだ。

 でも、僕たちの領土はあの森しかない。森しかない以上、そこを発展させるしかないじゃないか。


「先程申し上げた通り、グランディザイアは帝国の敵国となりました。ですので、いつ帝国が攻め込んでもおかしくない状態です」


「あ、うん。それは……」


「ですが、それは同時に、グランディザイアが帝国にいつ攻め込んでもおかしくない状況だということです」


「……ええと?」


「ですので」


 うん、とジェシカが頷く。

 僕には、その頭の中で何を考えているのかさっぱり分からない。

 ええと、帝国とグランディザイアが既に敵対してるから――。


「帝国から、奪えば如何でしょうか?」


「――っ!」


「城壁を築く必要もありません。家を建てる必要もありません。そこにあるのですから。橋頭堡として帝国の領地を奪うことで、よりオルヴァンス王国と連携して帝国との戦いに臨むことができるようになるかと」


「そ、それは……」


 ジェシカが、僕を見る。

 その眼差しは、僕を射貫くように。


「わたしは、そのための一助となることができると、そう思います。どうか、この身をお役立てください」


「……ジェシカ、きみは、一体」


「はい、ノア様」


 ジェシカは、にこりと僕に向けて微笑んで。


「わたしは、天職として『軍師』を授かりました」


「――っ!」


「未だ勉強不足ではありますが、わたしの天職は、ノア様の覇道のためにお使いくださいませ。わたしはその一助となることができれば、心より嬉しく思います」


 如何ですか、ノア様、と。

 まるで悪魔が囁いてくるかのように、僕にそう言ってくるジェシカの言葉に。


「……ジェシカ」


「はい」


「国に戻ったら、ドレイクに紹介するよ。僕の軍師として」


「ありがとうございます、ノア様」


 欲しかった存在――軍師。

 これから帝国との戦いを行うにあたって、これ以上の力は無い。


「さぁ……それじゃ、戦争の準備をするとしようか」


 まぁ、もう帝国から僕は魔王って思われてるみたいだし。

 今更、遠慮しなくてもいいよね。

 僕の家族を殺した報いは、存分に受けてもらうことにしよう。

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