第一話
長身に筋肉を纏った身体。黒髪で短髪を無造作そうにセットをする髪型はなんとも形容し難い。少し細めでタレ目がちだが凛とした印象なのはその目から放たれる眼光が鋭いからだろう。
黒のシャツに黒の細身のデニムを身に纏ったシンプルな服装だが貧相に見えないのは、前出した通り均整の取れた体格だからだろう。
名は司蒼夜という。
司は旧知の仲の三輝に呼び出され、とあるファミレスへと向かっていた。
なんでも、知り合いの女性から聞いた話がそこそこ怖かったので教えてやるという。
なんとも上からの発言だが、実話怪談師を生業にしている以上、この手の話はいくらでも手元に置いておきたいため、仕方なしとばかりに毎度三輝の呼び出しには応じるのだ。
それがまた、三輝のもってくる話は面白いものが多いから狡い。司が三輝を無碍にできない理由である。
今日は一体どんな話を聞かせてもらえるのかと、司は待ち合わせ場所のファミレスに着くとスマホで早速連絡をとった。既に三輝が中に入っているというので、ドアを開けて店員に待ち合わせである旨を伝えて三輝の待つテーブルへと向かった。
実はこのファミレスも中々に曲者で、視える人たち曰く、女性トイレの手前側の個室にはナニかがいるというのだ。まあ、ナニがいたとしても、自分は男なので確かめる術はないのだが。
そんなファミレスを、ホラー好きの三輝はいつも待ち合わせ場所に選ぶあたり、友人ながらなかなかにクレイジーなやつだと思うと同時に、その愉快さから離れ難い関係なのだろうと思わずにはいられない。
お待たせと軽く声をかけて三輝の向かい側に司は腰下ろした。
「お、きたね」
アイスコーヒーを飲みながら司に笑顔をむける三輝。司は店員にサラダとドリンクバーを頼むと手帳を広げた。
「で、どんな話?」
早速とばかりに取材開始モードの司に、三輝は呆れ顔でまあ待てと苦笑を向けた。そしてアイスコーヒーを一口、喉へと流す。
「今教えてる学校でね…」
三輝はフリーのフルーティストだ。とはいえ音楽活動だけではなかなか食べていけず、現在のメインの収入源は、講師をしてもらえるレッスン料。
専門のフルートだけではなく、吹奏楽部全体をみているのだが、これがまた評判がいい。
請け負った学校が地域のコンクールで金賞を受賞してから、ありがたいことに毎週どこかの学校で指導をしているらしい。
この三輝という男、アーティストでありながら気難しい面はあまり見る事が出来ないほど明るい性格の持ち主だ。
その辺りも評判がいい理由なのだろう。
教師にも人当たりがいい上、持ち前の明るさ故生徒とも仲良がいい。加えて、顔もそこそこいけているので父母会、特に母親たちからも好評だ。
学校といえば怪談の宝庫である。だから三輝は、講師を始めてから怪談ネタを頻繁にもってきてくれるのだ。
まあ、そのうちの大半は、子供たちが見聞きした物なので真贋付け難い話も多いのだが、そこは司の腕の見せ所。学校の怪談として一纏めにしたりしてそれはそれは恐ろしい怪談に仕立てあげている。
「とりあえず、飲み物とってくるからちょっと待っててよ」
司は席を立ちドリンクバーへと向かった。
ランチからは遅く、ディナーには少し早い時間帯のファミレス内には、学校帰りの高校生が数組と運動をしてきたらしき年配のグループが一組。それぞれ軽食をとりながら飲み物を飲んでいる。室温は程よく、窓からは下ろされたブラインド越しに穏やかな光が差し込んでいる。
思い思いの時間を過ごすには、ちょうどいい時間帯なのだろう。そんな中で怪談を話しこむなど、不健全極まりないなと思いつつも、毎度の事なのでさほど気にもせずに、司はコーヒーを手に自分の席へと戻った。
そこにはすでに注文したサラダが届けられていて、三輝はご丁寧にフォークを皿のそばへと出してくれていた。
「サンキュ。で、どんな話?」
司はコーヒーを一口飲んでから横に置いてあった取材用の手帳を開き、三輝に話を促した。
「あぁ、そうそう。今行ってるD中の先生から聞いた話なんだけどね、学生時代にバイトしてた時に怖い体験したんだって」
D中というのは今三輝が教えに行っている学校の一つだ。その中でまだ新卒採用だという先生がいて、その人から聞いた話らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます