第76話

「――というわけで、勇者パーティー四人の刑が執行されたわけだ」


 四人が処刑された次の日、シャロンが我が家にやってきて、あらましを話してくれた。

 俺とアリシアはその現場に行かなかった。四人の首がはねられるところなんて見たくなかったからだ。だって、きっとかなりグロテスクだろうし……。


「そうか。あいつら、死んだんだな……」

「ああ、死んだ。あいつらが生きていたところで、更生することはないだろうし、捕まってなかったら、もっと罪を重ねていただろう」


 その通りだ。

 だから、彼らは死ぬしかなかった。

 四人の死を悲しんでいるわけではないが、かといって、喜んでるわけでもない。なんだか、言葉で形容できない複雑な気分だ。


「ところで、これからどうするんだ?」俺は尋ねた。「このまま聖王国にとどまるのか? それとも、魔王国に帰るのか?」

「帰るさ」


 シャロンはさらっと答えた。


「お前は忘れているかもしれないが、吾輩は魔王だからな。長としての仕事が山ほどある。勇者が死に、聖剣も回収することができて、当座の脅威はなくなった。それに、聖王国とも仲直り、友好関係を構築することができた。もう聖王国にいる理由があまりない」

「そうか……」

「寂しくなりますね」


 アリシアはか細い声で言った。彼女にとってシャロンは数少ない友人の一人だった。そして、それは俺にとっても同じこと。


「なぁに、またそのうち、聖王国に来るだろうさ。もしくは、暇なときにお前らが魔王国に来るというのもいいかもしれないな」


 シャロンはそう言うと、ぷくぷくと太った皮袋をテーブルに置いた。


「ん? なんだ、これ?」

「吾輩からの餞別だ」


 皮袋の口を開けると、中にはたんまりと金貨が詰まっていた。俺はぎょっとした。

 すごい金額だ。これだけあれば、新しい家を買うことだってできる。


「こ、こんなにいただけません!」


 アリシアはうろたえつつ、皮袋をシャロンのほうへぐいぐい押した。


「そう遠慮するな。この金はあいつらを捕らえたときにもらった褒賞金――の一部だ。吾輩やエルナエルマもそれなりにもらっている。まあ、おすそ分けみたいなものだ」


 勇者パーティー四人の命が、大金に化けたのか……。

『遠慮するな』と言われたのだから、俺は遠慮することなく金を受け取った。


「それでは、吾輩はそろそろ失礼するとしよう」


 シャロンは椅子から立ち上がった。

 玄関へと向かおうとして、ぴたりと動きを止めて振り返った。


「ああ、そういえば聞くのを忘れていた」


 にやりと笑って、


「――お前ら、いつ頃結婚するのだ?」

「いつって……」


 いつだろう?

 まだ何も考えていない。

 もちろん、いつかは結婚するのだろうけれど、焦って今すぐに結婚する必要はない。カインという脅威も去ったことだしな。


「結婚式には吾輩も呼べよ」

「もちろん」


 俺が大きく頷くと、シャロンも大きく頷いて、我が家から去っていった。

 次にシャロンと会うのはいつになるだろう? 一か月後か、一年後か、それとももっと先のことか――。いずれにせよ、もう二度と会わないってことはあり得ない。


「この金で新しい家を買って、結婚式も挙げようか」

「そうですね」


 アリシアは微笑んだ。


「私の花嫁姿、シャロンさんにも見てもらいたいです」


 アリシアの花嫁姿を想像して愛おしくなった俺は、彼女の頬にそっとキスをしたのだった。

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