第355話 水まんじゅう(前編)
合宿が終わってから俺は勉強、勉強の毎日を過ごしている。
と言ってもまだ二日間だけれど。
「んあー……」
ぎ、とデスクチェアーの背もたれを少し軋ませながら背伸びをして、横にある窓から天気のいい空を見上げる。
外は暑そう、部屋はクーラーで涼しい。
黄色い陽が
学校で授業を受けるのとは違って、家で、自分の机で勉強するのは大体テスト習慣のみの俺だ。
もっと勉強しとけばよかったなー……つって、今更だけれど。
まだ時間あるとか何で思ってたんだろーなー……んあー。
こうやって腐っていても時間が減るだけ。
有難い事に秀才組のコセガワとノムラがまとめたノートをくれたし、こっちも秀才側の女子と買った問題集もある。
一つずつやってくしかない、とまたシャーペンを握った時、携帯電話が音を立てた。
てとん、というライーンの音だ。
タップして画面を開くと──。
ん? グループライーンの招待? 誰が──。
『はい集合ー』
ノムラ。
『はいはい』
コセガワ。
『こんにちはです』
チョウノさん、と続けば──。
『こんつは』
──誤字ってるタチバナ。
生物部の集まりで間違いねぇな、と思ったら続けてまた文字が出てきた。
『はや』
誰だ? ソラ……あー、タカナシか。
『よ。何これ』
レン? 写真部? そして。
『何の集まり?』
シウちゃん? ん? マジで何だ? とりあえず──。
『どういうグループ?』
──そうタップして飲みかけの麦茶を一気に飲んだ。
ぬる、おかわり取り行こ。
部屋を出て階段を下りる間も携帯電話は騒がしい。
てとん、てとん。
『打ち上げしよー』
『モデルの企画の? つか人足りなくね?』
他にもイチノセやクラゲちゃん、ミヤビちゃん、カトーとかもだけれどこの面子しか招待していないらしい。
『生物部はミヤビ君以外オッケー貰ってるよ。レン君はソラ君から暇だって聞いたからぶっ込んだんだよー』
『おい』
『クジラ君とクラゲちゃんとミヤビ君はお
『カトーは普通に断ってきた』
台所に到着した俺は冷蔵庫から麦茶──と、メモが貼られているタッパーを発見した。
『一人一個。多く食べた奴ぁ天誅。母』
母さんが好きな店の水まんじゅう、六個入り。
全部食べれるくらい美味しいけれど天誅が恐ろしいので一つさらに取って、後はしまった。
透明な白の中にあずき色のあんこが透けてらぁ。
冷たいの食いたいとこだったからちょうどいいや、フォークフォークっと。
『ミッコも誘ったんだけどバイトだってー』
『あのー、一年俺だけっての気まずいんで辞退してもいいっすか?』
『ソラちゃん強制参加なー』
いやいや、そろそろ俺も言いましょうな。
携帯電話の画面をタップ、タップ。
『ちょい待て、俺まだ参加とか言ってねぇんだけど』
打ち上げはいいんだけれど、いつ、どこで、何するを全く知らされていない。
そうライーンしてからポケットに携帯電話を入れて、麦茶と水まんじゅうを持って台所を後にする。
家族がいない昼間の家って静かでいいんだけれど、静か過ぎるというか。
うぉ、てとてとん着信音すんげ。
『クサカ暇じゃないの?』
『暇でしょクサカはー』
『あの、先輩達受験生ですよね?』
『頭を心配するなら強制しない方が』
『まぁ、同感です』
『俺は受験しねーけど気分転換と現実逃避は必要不可欠じゃね?』
『そゆ事ー。最後の夏休みじゃん! 遊ぼーよー!』
部屋に到着してすぐに読んだ。
暇っちゃ暇で勉強勉強の最近、レンの言う事もわかるし、ノムラの言う事もわかる。
『暇だよーだ。嘘、気分転換マジさせて』
そう打つと、各自スタンプで笑われた。
そしてこれまで静かだった女子の文字が出てきた。
『参加したいけれど、いつなの?』
『ごめーん、明後日!』
明後日って、ちっか。
『暇よ。どこ? 生物部の部室?』
それも、聞きたい事全部聞いてくれるわー。
水まんじゅうにフォークさして、もにゅっ、とひと口、冷たうまー。
そこに麦茶流し込んで……もにゅもにゅうまー。
『海行くよー』
ごっくん。
海って、はいぃ?
皆知らされてなかったのか、日帰りだと思ってたとか、遠いんですかとか、誰も何も聞いてなかったのか確認が止まらない。
『僕の叔父さんが宿やってるから一泊でも日帰りでもオッケーだよー」
何でもコテージを一棟予約済みとか。
ん? コセガワから個別にライーン、何々──。
『海だよ、水着だよ。最高か!!!!』
──これスクショしてグループライーンに貼ってやろかな……シウちゃんの水着……もやん。
てとん。
『私は泊まりで参加するわ。楽しみ』
お、お……俺も泊まりで!
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