第122話 フローズンヨーグルト(後編)
フローズンヨールグトはブルーベリーがぽちぽち入っていて、ところどころ紫色に染まっている。
甘いんだけれど、たまに酸っぱい塊が、ばつん、とくる感じ。
やや溶けているところがまた美味い。
「──昼前から小学生が来てさ。一緒にプラネタリウム作ったんだ。文化祭のやつよりももっと簡単なやつ」
「何人くらい?」
「十人くらい」
「大勢で楽しそう──楽しかった?」
「……半々?」
どうして? と、女子が使い捨てのスプーンを咥えたまま聞く。
俺はベンチの背もたれに、だらっ、と座って足を組んだ。
へその上辺りに紙コップを置いて、スプーンでつつく。
「失敗っていう失敗じゃないんだけれど、ちょっとやらかした? 子がいてさ。同じ班の奴にそれ茶化されて──」
「──不機嫌さんになっちゃったのね」
そ、と俺はため息をつく。
「子供の頃あるあるな話ね」
「だよなー……今もたまーにあるけどよ。でも、ヤな事はヤな事じゃん? 受け取る側の、気持ち、みたいな。まぁ一応フォローしたんだけどさ」
似たような事をしても、
「──笑ってた?」
女子はまだ少し濡れた前髪を指で整えながら、目だけで俺を見た。
「うん、まぁ」
隣の班の後輩が似たようなミスをわざとして、一緒だなー、とか、次はやんないようにしようなー、とか言って、それで機嫌が戻った、というか。
素直に、すげぇな、って思った。
「クサカ君は気にし過ぎかもしれないわね」
「そんな事ねぇと思うけど……」
すると女子はこう言った。
「ミスや間違いなんて誰にでもある事だわ。それがあるからもっと学ぶの。頑張れるの……って、私は思うのだけれど」
美味し、とまた一口、フローズンヨーグルトを食べた。
入っているブルーベリーは丸いままのやつもあるし、潰れて破れたやつもある。
白に紫をつけているやつもある。
俺は潰れたブルーベリーを掬って、食べた。
酸っぱ。
「ね? 美味しいでしょ?」
それは、楽しかったでしょ? って事。
「──うん」
「じゃあそんな顔しないの。はい」
……ぬぅん、食えってかぁ?
女子は、あーん、とフローズンヨーグルトを乗せたスプーンを俺の口元に突きつけていた。
やや溶けていて、零れそうで、なので仕方なく口を開けた。
あー……──んあ?
ひょいっ、とスプーンは女子の口の中へ。
「んふー、ひっかかった」
二段構えで恥ずいわ! こんにゃろ……でも、元気出た。
俺がこういう顔してたら駄目だよな。
どっちもこういう顔の方が、美味しい、ってやつ。
「ごちそうさま」
「さんー」
空になった紙コップを手に足を投げ出す。
俺はこれから観測の時間だ。
今、後輩らは自由時間で、夜中に交代したりするけれど──。
「──なぁ」
俺は夜色の空を見上げた。
「もう部屋戻る?」
「ううん、まだ戻らないわ」
「何かすんの?」
女子を横目に見ると、女子も横目で見ていた。
「うろうろしたいなって」
「ふっ、うろうろ?」
「夜の校内お散歩よ。こういう時じゃないと出来ないじゃない?」
まぁな、と俺はベンチから腰を上げた。
「──それって一人がいい?」
わざと。
「んー、十人でもいいわよ?」
女子も、わざと。
「……二人、ってのは?」
「誰と?」
また、わざと、っぽく。
「──ん」
「ふふっ、ありがと」
俺は女子に手を差し出して、女子は俺の手を取って、ベンチから腰を上げた。
「じゃあ、そこに連れてってくれる?」
女子は、する、と手を滑らせて、俺の人差し指に人差し指をかけた。
この前は小指で、今度は人差し指で、軽く揺らしてくる。
手を繋いだ子供のように、浮かれ気味な感じで。
その小さな揺れに俺も少し、浮かれている。
さて、どこに行きますか、の前に──。
「──調理室、行くか」
飲み物を調達しよう、と俺と女子は、散歩る。
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