第30話 キャラメルポップコーン(後編)
──俺が右側、女子が左側。
映画館内に入った俺達はすぐに席を取って、売店へと並んだ。
もっと込んでいるかと思いきやそんな事はなく、けれど俺は辺りを見て思った。
……女ん子だらけ。
少女漫画が原作だからしょうがないっちゃしょうがないんだけれど、ほんと誘ってよかったな、なんて思ったり。
売店でコーラ二つ、そして女子が言っていたキャラメルポップコーンを買った。
その時だ。
何故か女子はLサイズを頼んだのである。
俺はMサイズを一つずつかと思っていたので驚く、というか、一つを二人で? なんて、そわっ、としてしまったが、すでに映画は始まっている。
そしてその恐れ? ていた状況は今。
俺の膝の上にはキャラメルポップコーンがある。
どっちが持つかは、じゃんけんで決めて、俺が負けたのだ。
……まぁいっか。
観たかった映画観れてるし。
「──ねぇ」
ひそり、と肩にストールを掛けている女子が耳打ちしていた。
──近い!!
声には出さなかったけれど、映画の音量よりも心の声が大きかった俺の、何か。
薄暗い中で、ちょっとだけ明るく見えて、なんつーか……近い。
「な、何?」
「あの女優さん、何て名前だったっけ」
ああ、と教えてやると女子は軽く頷いてポップコーンを何個か手に取って戻った。
俺はストローを咥えてまた映画に集中──出来なくて。
……あの男も彼女に頼まれてって感じか?
──彼女!? 違う! 俺とクラキはそんなんじゃなーい!!
手で口を覆って一人で、もだもだ、としてしまった。
違う、俺は映画を観に──。
──と、手に、手が、当たった。
左を見ると、女子も俺を見ていた。
キャラメルポップコーンを取ろうとしただけ、多分俺の手が邪魔だ。
なのに、なんか動かな──。
「──邪魔」
ぺっ、と手を払われてしまった時、正気に戻った。
ひそひそ声がなんか、なんか──映画よりも入ってくるなんて、有り?
※
──この位置は落ち着くわ。
キャラメルポップコーンにコーラ、ぽつぽつ、と席が空いている映画館内。
そして割りと面白い恋愛映画。
素敵な物と空間──隣にいる男子。
この位置はいつもの放課後の教室みたいだ。
机の代わりに肘掛けがあって、誰もいない机と椅子の代わりに知らない人の頭と、可愛い女優さんが笑っているスクリーン。
可愛い女優さん──主人公は片想いしてるのね……告白したいけれど、彼には……。
かりっ、とキャラメルポップコーンを一つ食べる。
ほろ苦いような、ほろ甘いような味が止まらない。
主人公は──恋に焦がれている。
私は、ちらっ、と男子を横目で見ると、ストローを咥えたまま真剣に観ていた。
主人公の彼女に感情移入しているのか、一緒になって寂しそうな目をしている。
本当にこの作品が好きなのね、と私は軽く笑った。
おっと、笑うシーンじゃないし我慢しないとだわ。
映画も終盤、知らない人の鼻を
皆、泣いている。
私も少しは──ううん、感動はしている。
うん……とても素敵。
恋愛って、素敵。
「──すん」
すん?
男子の鼻を啜る音が聞こえて、顔ごと男子に振り向いてしまった。
……わお。
男子は目にいっぱい涙を溜めて、耐えていた。
夢中なのか、私が見ている事にも気づかない。
見なかった事にしよう、とキャラメルポップコーンに手を伸ばした時──手を、握られた。
痛くはないけれど、何で。
どうして、優しく握るの?
私はさっきみたいに何故か解けなくて、エンドロールが始まるまでそのままだったのだった。
※
映画館を出た私達はロビーでパンフレットなどを買っていた。
男子は満足そうで、私も観て良かった、という感じだ。
まだ陽が高い。
会計を済ませた男子に言ってみた。
「──ねぇ、これからの予定は?」
「んー、何も決めてねぇけど?」
「なら、ちょっと行きたいところがあるんだけれど、いいかしら?」
映画の感想会もしたいし、と付け加えると男子は、おっけ、と言ってくれたのだった。
それはここからちょっと行った先にある、とあるお店。
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