第38話 死領前にて

「ここまでだ」

 壮年の男が、後ろの若者を制した。

「じゃあ、この先が…」

「ああ。お前でも容易く死ぬ。準備だ」

 防護衣を着込んだ二人は背負っていた器材を手際よく組み立て、眼前にある"それ"に焦点を合わせた。

「…静かですね」

 望遠鏡を覗きながら、若者が呟いた。

「それに、何か綺麗だ」

「"あれ"を知らない者らしい感想だな。俺は恐ろしくてたまらん」

「なのに、この仕事を何十年も?俺と違って耐性もないんでしょ」

「だからこそさ。"あれ"の危険も怖さも知っているからな」

「俺にはどちらもないですよ。そんな奴を後任にしていいんすか?」

それ危険と恐怖を知る機会はもうあってはならない。両方とも俺がしっかり教えてやるさ。お前にやる気があればな」

「それ、最近の若者は…てやつですか」

 苦笑いしながら仕事に戻る若者。

 その目線の先では、この世の絶望を濃縮したかのような暗き"闇"が一本の塔のように天へと伸びていた。

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