魔王復活
「彼らは寮暮らしをしてもらって、再教育する! 貴様らと絶縁してな!」
「まあ、なんてこと!? 親元から無理矢理引き離すなんて! ひどいザマスわ!」
貴族の奥方が、憤る。
「さて、未来ある子どもたちよ。ワシと共により高みを目指すか。それとも親元での保護を望むか。選ぶがよい」
協会長が、学園に向けて背を向けた。
その後ろを、召喚士たち全員がついていく。
「なっ!? 待たんか!」
「帰ってらっしゃい! こんな学園やめさせてあげるから!」
貴族たちが、子どもたちを引き留めようと駆け寄った。
学園をガードする騎士たちが、親たちを突き放す。
「おのれ、こうなったら」
激高した親たちが、会場を後にしてどこかへ向かう。
『さて、最後の最後で暴動になってしまったS級召喚士認定試験も、終わりを迎えることとなりました。皆様、三日間のお付き合いありがとうございます! それでは、これにて……おっとぉ!』
会場が、黒い雲に覆われる。太陽を遮り、雷鳴が立ちこめ始めた。
雲が渦を描き、穴が広がっていく。
闇を人型にしたような巨人が、会場に降り立った。黒い雷雲で全身を覆う様は、星空をマントにしているように見える。その顔は凹凸のない鋼鉄の仮面に覆われ、表情がわからない。
『あーとぉ! あれは、魔王です! かつて勇者が倒した強敵たる魔王アバドンが、今ココに復活を遂げてしまいましたぁ!』
黒の巨人、魔王アバドンは、シチサブローに向けて言い放つ。
「ダークエルフと従者のドラゴンよ。これより、エクストラステージだ」
ギャラリーたちが、パニックになって逃げ出した。
王国の兵隊が、観客を安全な場所まで誘導する。
幼き召喚士たちは逃げない。いや、逃げられないでいた。見たこともない暴力的存在を前に、全員が腰を抜かしている。
「ほらみんな、立ってください!」
最弱なはずのケットシーを連れた少年を除いて。
「こっちだよ、早く逃げて!」
ケットシーに導かれ、子どもたちもようやく逃げていく。
巨大な魔王アバドンが、シチサブローに勝負を挑んできた。
『次の挑戦者は、とんでもない相手だ! なんと魔王! 召喚したのは、おっと貴族たちです! それも、全員が先代召喚士協会長派です!』
やはり、一連の腐敗は先代派の仕業だったらしい。全員の魔力を結集し、不完全ながら魔王を復活させたのか。
いや違う。先代派たちは、慌てふためいていた。
「おのれ化物!」
騎士の一人が、魔王アバドンに斬りかかる。
「いかん、早まるでない!」
協会長の制止も、間に合わなかった。
哀れ騎士は、魔王の身体から湧き出たモンスターの半身に殴り飛ばされる。死んではいないようだが、動けない。
「あれは、召喚獣かよ?」
シチサブローは、モンスターの正体に気づく。
自分たちの召喚獣が、魔王に吸収されているではないか。
マントの裏側では、召喚獣の群れが魔王の拘束から外に出ようともがいていた。
「あのヤロウ、召喚獣を取り込んで復活を遂げやがったのか」
自分たちが御すれば、魔王すら飼い慣らせるとでも思っていたのだろう。たやすく世界を闇に変えられる存在なぞ、人間がどうにかできるわずがないのに。
「よお。お久しぶり」
魔王の胸元から、魔族が顔を出した。先日倒し損ねた、あのナイトゴーントではないか。
「先代派を丸め込んでいたのも、テメエだな?」
「大正解だよ、料理人くん。うまく騙しおおせたぜ。召喚獣だって、喜んで差し出してくれたさ」
貴族たちから怒号が飛び交う。「約束が違う」とか「インチキ」とか、様々な怒鳴り声が。
このナイトゴーントが触媒となり、魔王が形を成していると見える。協会を騙していたのも、あの魔族だろう。
「とんだ邪魔が入った。せっかく先代協会長を籠絡して、内側から召喚士どもを腐敗させることに成功したというのに。貴様の差し金だな」
魔王は、先代協会長とグルだったようだ。
「貴様の陰謀など、お見通しじゃった。ワシの功績ではない。ここにおる王女の天使が、先代の召喚獣を倒したのじゃ」
王女が倒したリヴァイアサンは、先代の召喚獣である。だが、先代の行った洗脳に近い召喚術によって汚染されていた。
現協会長は王女に「試験」と称し、先代を「処罰」させたのである。
先代の油断もあっただろう。それでも、わずか一二歳にも満たない少女召喚士に敗北したことにより、先代協会長は失脚した。
「随分と小ずるい策略だな」
「貴様らに言われとうないわい!」
「だが、不完全とはいえ復活を遂げたこの魔王に勝てるとでも?」
「ワシの秘蔵っ子を、甘く見るでないわ。シチサブローッ!」
協会長に言われるでもなく、シチサブローは動いている。包丁を二刀流に持ち替え、テルルに呼びかけた。
「テルル、真の姿を示せ!」
「ほいきた。おおおお」
両の拳を天に突き上げ、テルルが本性を現す。ドラゴン本来の形状へと。
『おっと! テルル審査員がドラゴンの姿に戻った! それでもつぶらな瞳などは愛らしい!』
首の長いドラゴンへと変形しつつも、顔つきや瞳はテルルの面影がある。
「伝説の幻龍と、黒魔術の達人と立ち会えるか。相手にとって不足はない」
「へっ。誰が戦うっつった?」
「なにを?」
「オレサマといえば…料理だろうが!」
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