思う壺

「ママ、『思う壺』ってどんな意味?」


 10歳の娘が聞くので、念のため、スマホで確認してみる。


「『こうなったらしめたものだと、前もって思った姿。』だって。たくらんだことが、その通りになる、みたいなことなんだけど、例えばねぇ……」


 私が例を挙げようとしたら、


「ママ、わかった!」と娘。


「およ?」

「お兄ちゃんがカレー作ると、パパもママも『カレーはお兄ちゃんが作ったのが一番おいしい』て言うでしょ」

「うん」

「牛丼のときもそうだったでしょ」

「そうね」

「チャーハンのときも」

「かな?」

「お兄ちゃん、晩ご飯を毎週つくるようになったけど、これってパパとママの『思う壺』?」

「う……」


 ……バレてた?


「ママのそのピンクのふわふわのセーター」

「え?」

「今日、パパが大好きな、から揚げにするんでしょ」

「うん」


 なんでわかった?


「ビールもあるでしょ」

「うん」

「パパがお腹いっぱいで、酔っ払ってるときに、『ねえ、あなた』てお願いするんでしょ」


 ……うげぇ。バレてる。恐ろしい子!


「なんてお願いするの?」

「お正月、パパの実家じゃなくて、ハワイに行きたいなぁ〜なんて。えへへ」

「それはちょっと……。から揚げとビールじゃ難しいと思う」

「やっぱりそう?」

「まいからも、お願いしてあげよっか?」

「え?」

「こうやって、『まいもハワイがいい〜』て言ったら、どうかな?」


 娘がとびきりの笑顔を作る。


「まい、それイケる。効果覿面」

「パパ、『思う壺』ね?」


 小悪魔な笑顔を浮かべる娘。お、恐ろしい子……! パパ、女とはかのように恐ろしい生き物です。お許しください。


「たのむわ、まい。ありがとう」

「ママ、いいの。私もハワイ行きたいし」

「だよね」

「その代わりって言うとなんだけど」

「およ?」

「まい、新しい筆箱がほしいなぁ」

「……」

「ハワイに行けることになったら、ね?」

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