第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ 07

「あーあー、前方の暴走バイクに告ぐ。今すぐにスピードを落として路側帯に入るッス」

「ん? この声、あの女刑事か?」

「無駄な逃走は止めるッスよー」

「ケッ、止まれと言われて止まる奴がいるかよ!」


 レンタロウはイチモンジの忠告など耳にも入れず、グングンとスピードを出して逃げ切ろうと目論むが――


「私の下乳触ったエロテロリスト、さっさと止まりなさーい」

「んなっ!?」


 レンタロウは聞こえてきたその一言に気を取られ、思わずアクセルを緩めてしまった。


「おっスピードが少し落ちた。思ったより効いてるみたいッスね」


 レンタロウの隙を見て、イチモンジはアクセルペダルをベタ踏みにして追行する。


「き、君!なんて事をっ!」


 イチモンジの余りにぶっ飛んだ作戦に、それを許してしまったオキナミは焦って止めに入るが、イチモンジは握ったスピーカーマイクを離さなかった。


「触られたのは本当ッスから、使える物は使わないと」

「しかし公務中にそういう発言は――」

「だったら犯人、このまま逃がしていいんッスか? このまま逃したらそっちの方が警察としてのプライドが傷つかないッスか?」

「それは……でも君の尊厳というものが」

「まあまあ、心配して貰えるのはありがたいッスが、私の事なんて二の次でいいッスから。今は犯人逮捕が先決ッス」

「……分かった、君に任せる。ただやりすぎないようにな」

「ウッス」


 羞恥心すらかなぐり捨てて犯人追跡に挑む後輩刑事の熱意を目にし、オキナミはそれ以上何も言わなくなった。


「さっさと止まって謝罪を要求するッスよー破廉恥エロテロリストー」


 背後から浴びませられる思わぬ罵声に、レンタロウの苛立ちは募るばかりだった。


「クソッ、言いたい放題言いやがって!」

「んで、ホントのところはどうなんですか? 触ったんですか?」

「あ?」


 サイドミラー越しに、サヤカは疑いの視線をレンタロウに送っていた。


「別にいいだろ今そんな事……」

「良くないですよ! ワタシだって女なんですから気になりますよ! 故意的に触ったのかそれとも偶然なのか――」

「偶然だ、当たり前だろ。一撃で仕留めるのには人中を狙っても良かったが、警察だからって女の顔を殴る趣味は無いんでな。だからみぞおちにしたってだけだ」

「なるほど……」

「それに」

「それに?」

「乳くらいで今更ギャーギャー言わねぇよ。お前のが背中に四六時中当たってんだから」

「んなっ! サイテーッ!!」

「イダダダダッ!!」


 サヤカはレンタロウの腰回りに固定していた腕でレンタロウを締め上げた。


「バカお前! こんな時に何しやがる! 危うくハンドル操作狂うところだっただろ!」

「フブキさんが悪いんですよ!」

「あっ? 何が悪いんだよ?」

「デリカシー無さ過ぎです!」


 サヤカは怒り、腕はこれまでと同じくしっかりレンタロウの腰に固定するが、胴体は自然とレンタロウの背中から遠ざかっていった。


「クソッ、大分追いつかれちまったな」


 イチモンジのレンタロウへの精神攻撃の甲斐あってか、パトカーはもうすぐそこにまで来る程距離を詰められてしまっていた。


 そして更に――


「後ろから……うわっ! 反対車線からもパトカーが来てますよ!!」


 オキナミが呼び寄せた応援が遂に到着してしまった。


「クソッ……こんな所で撃たれたりなんかされたら洒落になんねぇぞ」


 レンタロウ達が更なる苦戦を仕入られる一方、やっと追い詰めたイチモンジ達は更なる追い込みを掛けようと目論んでいた。


「応援が来たぞ! 後は発砲許可が降りれば奴らは一網打尽だ!」


 オキナミは応援が来た事に嬉々としていたが、運転をしているイチモンジには一つ気掛かりな事があった。


「でも発砲なんてしたら一般車両に当たって危なくないッスか?」


 そう、何もこの道を走っているのはレンタロウ達のバイクとパトカーだけではなく、一般車両も往来している。そんな中で発砲し、万が一にも一般車両に当たってしまったら大問題になりかねないからだ。


 だがその件に関して、オキナミは問題無いとイチモンジに言い切った。

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