第1話 荒野の町のミートソースパスタ 04

「ヒタチさんからですか?」


 サヤカが尋ねてきたので、レンタロウは首を縦に振った。


「メンドイ事に仕事が増えた。基地局を破壊するついでに情報を盗んで来いだとよ」

「はあ……なんだかいよいよワタシ達の首にも賞金が賭けられそうな案件ばかりになってきましたね」

「まったくだ。ヒタチの野郎、かなり焦ってるんだろうな」

「今や帝国の技術革新は目覚ましい程発展してますからね。帝国が月なら、レジスタンスはスッポン――いえ、子供のミドリガメと言ったところでしょうか」

「子供のミドリガメねぇ……まあとにかく、これからはちょっとレジスタンスとの付き合い方も考えないといけないな」


 言葉の端に面倒だなとレンタロウはボヤいて、クセ毛だらけの頭を掻いた。


「どうしますこれから?」


 先程と同じ質問をサヤカはするが、レンタロウはさっきよりも不服そうな表情をして返答をしてみせた。


「寝るっ! 当たり前だろ? ただでさえ疲れる仕事が更に厄介になったんだからな!」

「ええ……やっぱりそうなるんですね」

「お前、さっきからほっつき歩きたいような言い草だけどさ、この何にも観光するようなとこが無い田舎町で何をしたいんだ?」

「ええ~……それはその~……サボテン見たりとか?」

「ここに来る前にバイクに乗ってさんざん見ただろ! ったく……歩き回りたきゃ勝手に一人で歩き回れ。俺は日陰のあるとこで寝とくから」


 レンタロウはナノデジでヘルメットのマテリアルデータを読み込む。するとレンタロウの頭部が刹那、黒のフルフェイスヘルメットに覆われ、それから店の前に停めてあった1300CCのバイクに乗り、キックスタートでエンジンをかけると、バイクは轟轟たる起動音を立てた。


「ワタシは別に一人で歩きたい訳じゃないのに……」


 サヤカはボソリと呟くが、しかしその声はバイクのエンジン音にかき消され、レンタロウには届いていなかった。


「何か言ったか?」

「ううううううう~っ! 分かりましたっ! ワタシも着いていきます!!」


 するとサヤカもマテリアルデータを読み込み、白のフルフェイスヘルメットを被ると、バイクの後部座席にどかっと座り込んだ。


「ほら、早く出発してください!」

「は? お前ほっつき歩くんじゃ――」

「早く!!」

「何なんだコイツいきなり……めんどくせぇ」


 困惑と腹立たしさを抱えながらも、レンタロウはバイクのアクセルを回し、エンジンを吹かせて走り出した。



 ――それから時間は過ぎ、夜。レンタロウとサヤカは、ウルハイムから約5キロメートル程離れた場所に居た。


 第47基地局。テクノピア帝国が所有する、軍事用遠距離通信の中継地点の一つだ。


 基地局には巨大なパラボラアンテナが一機とそれを管理する建物が一棟あり、その周辺は有刺鉄線が巻かれた鉄柵で覆われ、強固な正門が番人の役割を果たしている。


 二人はここまでバイクに乗ってやって来たのだが、バイクはエンジン音が大きい事と、戦闘が起こった際、流れ弾などに当たって故障しないように、基地局から約100メートル程離れた所にある岩場の影に潜ませ、それからは歩き、基地局の前の物陰で待機していた。


「そろそろ時間か?」


 レンタロウがそう言った直後、着信音が鳴る。相手はヒタチからだった。


「待たせたかレンタロウ?」

「いや」

「そうか。ミッション内容は昼間に伝えた通りだ。管理室は管理棟の2階。そこで監視カメラのデータと通信ログのコピーを取り、それから動力源のある機関室へと向かってくれ。機関室はアンテナ内部の1階にある」

「了解。警備はどうなんだ?」

「常駐のスタッフの数は12名。内通信士が4名、機関士が3名、警備兵が5名。夜間の警備は3名をローテーションで行われるとのことだ」

「ほう……そこまで情報を事前に用意してくれるなら、監視カメラの記録と通信ログくらい自分達で仕入れて欲しいものだけどな」


 レンタロウが憎まれ口を叩くと、ヒタチは苦笑いを浮かべた。


「ウチも手一杯なんだよ。分かってくれ」

「フン……まあ報酬さえちゃんと貰えりゃ別にいいや」

「ハハッ、頼もしいな。それじゃあよろしく頼む」

「あいよ」


 ヒタチが会釈したのを最後に見て、レンタロウは通信を終了した。

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